2021 Fiscal Year Research-status Report
「就業者包摂モデル」の労働法規範体系を構想する-フランス法に示唆を求めて
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20K01333
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
野田 進 九州大学, 法学研究院, 特任研究員 (90144419)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 就業者包摂モデル / 自営的就業者 / フランス労働法 / 労働契約 / 社会的対話 / フリーランス / プラットフォーム就業者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近年の多様化した就業形態、特にデジタル機器を駆使した自営的就業の就業形態が世界規模で拡大する今日、労働法がこれらの就業形態を包摂する法体系に組み替えることを、「就業者包摂(convergence)モデル」と称して、規範構築を試みることを目的としている。 2021年度には、本研究課題をふまえて2020年度より進めてきた、フランス労働法の全体像に関する研究書の書き下ろしの執筆をほぼ完成して脱稿しており、2022年内に刊行の予定である。同書では、本研究課題と直接に関係する部分として、「第Ⅱ編労働契約」の中の「第2節労働契約の意義」の項目において、労働契約における従属的関係論を論じている。そこでは、フランスにおける労働者性の相対的理解を基礎に、「労働法適用アプローチ」という法理が定着して、労働者性の有無について厳格に判断することなく、劇団員、家事使用人、代理外商人、フランチャイジー、プラットフォーム就業者、労働者協同組合の出資就業者といった人々について、労働法の部分的適用を認める法制があり、その具体的な法理の実状を、判例動向もふまえて紹介した。 以上とは別に、2021年度には、日本の法制のもとでの解釈論として、いわゆるフリーランスといわれる就業者の、就業条件についての集団交渉または労使間対話の権利保障について、これを可能とする法理を展開し、提案する論考をしている。日本の判例・学説は、フリーランスやプラットフォーム就業者の団体交渉について、硬直的に、労働者性と使用者性の要件を満たすことを求めており、法理の進展が乏しい。フランス法やEU法の立法動向を参考に、これら「労働者性」を前提としない、「社会的対話」の促進の可能性を示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度には、研究課題に関する論考の公刊・発表など、いちおうの文献的成果は挙げることができた。この点では、ほぼ満足する成果ということができる。 しかし、世界的なコロナ禍により、2020年度に引き続き、フランスでの実地の調査研究をなすことができず、当地での研究者・実務家からの聞き取り情報や、現地資料等を入手することができなかったため、資料面での裏付けや現地の「肌感覚」でも情報収集ができなかった。この点で、研究の進捗としては十分とは言えず、2022年度に課題を残している。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度では、コロナ禍が収束し、フランスでの実地の調査研究をなすことができるようになった場合には、当地での研究者・実務家からの聞き取り情報や、現地資料等を入手することにより、これまでの研究の補充を行うとともに、それらをできるだけ年度内に論考として公表する。 しかし、不幸にもコロナ禍が収束することができないときには、より集中的かつ丹念に、フランスの判例、労働協約、政府通達を、できる限り読み込むこととし、それら文献情報に基づく研究の進捗を図る予定である。
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Causes of Carryover |
本研究は、近年の世界規模で生じている、多様化した就業形態、特にデジタル機器を駆使した自営的就業の就業形態の拡大状況にかんがみ、フランス労働法の取り組みを参考に、「就業者包摂モデル」の規範構築をめざすものである。そこでは、フランスの立法、判例、通達、学説等の文献資料だけでなく、現地において、実務化等のヒアリングを実施することを、重大な柱としている。 そのために、旅費の使用を計画していたが、2020年度、2021年度のいずれも、コロナ禍の世界規模のまん延のために、いっさい外国調査に取り組むことができず、旅費用の予算を執行できない状況であった。 2022年度は、コロナ禍の改善の兆しも見られ、外国の実地調査を期待できる状況にあることから、これまでの研究空白を取り戻すべく、フランス等での調査に精力的に取り組む予定である。
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Research Products
(4 results)