2020 Fiscal Year Research-status Report
「雇用によらない働き方」の歴史的位置と労務供給契約に対する労働法的規制の課題
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20K01338
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
石田 眞 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 名誉教授 (80114370)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 労務供給契約 / 雇用 / 労働法 / 企業組織 / 歴史法社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本における19世紀から21世紀にかけての労務供給契約(他人の労働力の利用を目的とする契約)に対する法規制の展開過程を、それぞれの時代の企業組織や就業形態・契約形態の型を念頭におきながら考察し、それを通じて、現在問題となっている、いわゆる「雇用によらない働き方」の歴史的位置を検討するとともに、民法において雇用・請負・委任という名称を与えられている労務供給契約に対する労働法的規制の今後のあり方を検討することである。また、かかる研究を遂行する方法は、「歴史法社会学」という方法である。 2020(令和2)年度においては、①研究方法である「歴史法社会学」について、労働法学における「比較」と「歴史」という観点からより深い考察を行ない、②労務供給契約に対する法規制の展開過程の考察としては、明治民法制定以前の労務供給契約紛争に対する裁判所の判断の分析に着手すると同時に、21世紀(現代)における最先端の労務供給契約であるプラットフォームワーク契約の検討を行った。 その結果、①の研究方法については、「労働法学における『比較』と『歴史』」という論稿(季刊労働法271号、2020年)にまとめ、②の明治初期の労務供給紛争に関する判例分析については、民事判決原本の分析を行うと同時に、現代の労務供給契約の分析としては、プラットフォームワーク契約について、浜村彰・石田眞・毛塚勝利編『クラウドワークの進展と社会法の近未来』(労働開発研究会、2021年)に一定の成果を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請書に記載した2020(令和2)年度の研究実施計画は、「民法における「雇用」概念の現代的意義を「3段階モデル」によって歴史的に明らかにすること」であった。しかし、①明治民法の「雇用」規定の意義を明らかにする前提である明治初期の労務供給契約紛争の判例の読解・分析にかなりの時間を要してしまったこと、②研究方法の進化のため、「歴史法社会学」の検討に注力したこと、を主要な原因として、当初の研究実施計画に遅れが生じてしまった。 明治民法の「雇用」も含む労務供給契約規定については、これまである程度の分析を行い、すでに公表もしている。それに、明治初期の判例分析が加わると、明治期における労務供給契約に対する法規制の歴史に新しい知見をもたらすことができると考えている。したがって、遅れは遅れとして、引き続きかかる分析の完遂に向けて努力したい。 いずれせよ、現在の研究の遅れには、それなりの理由があるので、その点を考慮しつつ、次年度には、研究のペースを上げたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021(令和3)年度においては、主として、「雇用によらない働き方」の歴史的位置を<労務供給契約に対する労働法的規制の3段階モデル>により検討することである。具体的には、①3段階モデルの第1段階(19世紀)については、明治初期の判例分析と明治民法における労務供給契約規定の分析を統合しつつ「雇用」の意義に再度光を当てるとともに、②第2段階(20世紀)については、初期労働立法(工場法や鉱業法)との関係も含め、労務供給契約の中での「雇用」の位置の変化とその要因を分析し、③第3段階(21世紀)については、「雇用によらない働き方」が出現する背景を企業組織の変動や就労形態・契約形態の多様化との関係で分析する。 上記の研究課題に若干の解説を加える。私の仮説では、「雇用による働き方」の形成・展開と「雇用によらない働き方」への変化を促した要因は、<垂直統合型企業組織>の形成・展開とその<垂直分解型企業組織>への変動であり、そのダイナミズムをとらえることが今後の研究の推進にとって重要であると考えている。
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Causes of Carryover |
(理由) 2020(令和2)年9月にポルトガル・リスボンにおいて、"Work and Employment in the Digital Era: Legal Challenge"をテーマに開催される国際学会に参加する予定であったが、ヨーロッパ地域におけるコロナウイルス感染拡大により同学会の開催が延期されたため、当初予定した出張が出来なかったため。 (使用計画) 今年度開催さされば、同学会に参加し、当初予定額を使用したい。
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