2020 Fiscal Year Research-status Report
働き方と社会保障の関係の再定位:基礎理論と「社会保障実践」の両面から
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20K01340
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
山下 慎一 福岡大学, 法学部, 准教授 (10631509)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 社会保障 / 自営業者 / 新しい働き方 / スポーツ選手 / 労働義務 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、 社会の変化(働き方や生き方の変化)に対応した新しい社会保障のあり方を模索するものである。 情報技術の爆発的な進展に加えて、新型コロナウイルスの影響による社会のあり方の動揺もあり、これまで以上に人々の生き方や働き方が大きく揺れ動いている。このような中で、あらゆる人に適切な社会保障を提供するためのあり方はどのようなものか。 この点を考えるにあたっては、これまでの社会保障が前提としてきた法的な枠組みについて、根本的に再検討する必要がある。その取り掛かりが、働き方と社会保障の関係に関する憲法的な枠組み、すなわち憲法27条1項の「勤労の義務」規定の法的効力に関する議論である。 本研究は、この点に関する検討の結果、勤労の義務規定が法的効力を持つとする従前の通説には十分な根拠がないと考える。 もしこの検討が正しいとすると、働き方と社会保障のあり方を切り離して考えるような、 社会保障に関するより自由度の高い法政策論が可能になる。この点において、本研究は社会保障の新たな地平を切り開く糸口を提供したものと考える。 ただし本研究では、研究の両輪として想定していたもう一つの内容、すなわち従前の社会保障において中心的な位置づけを与えられてこなかった主体が、どのように自助・共助を発達させてきたかという点に関する実証的検討が、下記の通り、十分には達成できなかった。この点に関する検討を深めることによって、上述の「勤労の義務」規定に関する基礎理論的研究が、相乗効果を持ってより大きな意義を持ってくると考えられるため、次年度以降はこの点に関する検討を深めていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は、全体としては概ね順調に進展している。ただしその進展の仕方には、正確に言うと、領域によって前後している部分がある。具体的には下記の通りである。 本研究計画は、基礎理論の探求と社会における実践調査の両輪からなっていた。このうち前者については、いくつかの重要な論点に関し、論文を公表することができた。つまり、当初の計画よりも早い進捗を得ることができている。 これに対して実態調査に関しては、新型コロナウイルスの影響が大きく、当初よりも幾分遅れたものになっている。すなわち、本研究計画においてはインタビュー調査をメインとして実態調査を行うことにしていたが、出張により現地に向かうということが不可能になった。ZOOM等の手段の活用による遠隔インタビューも考えられるところであるが、人間関係の未確立な対象に対する初回のインタビューは遠隔では困難であった。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルスの影響が続くとすると、本研究計画のうちのインタビュー調査のパートに関しては、見直す必要があるかもしれない(あるいは研究協力者を新たに探すことによって、遠隔インタビューによって、当初予定していた通りの成果を得ることができるかもしれない)。この点に関しては、 社会状況の推移を見ながら対応していきたい。 他方で、本研究計画のうちの基礎理論に関しては、当初想定していた以上の広がりを得ることができている。これに関しては、法学・法律学のみならず、 他の分野の協力も得ながら、 広く社会貢献に繋がるような深みと広がりのある研究を今後も続けて行きたい。この部分に関しては、可能な限り社会に広くインパクトを及ぼすような公表方法についても、模索していきたい(例えば文章のみならず動画やアニメなどの方法も含めて)。
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Causes of Carryover |
本研究は、先端研究と基礎理論を両輪として展開するものであるところ、計画の段階では、先端研究についてはインタビュー調査を前提としていた。ところが、コロナ禍により、すべてのインタビュー調査がキャンセルになってしまったため、旅費を使用することができなかった。また、人件費・謝金についても、コロナ禍の下では、調査補助等を依頼することが大変困難で、この費用についても使用できなかった。 これらの額のうち、人件費・謝金については、ウェブ会議システムを活用することで、適切に使用することを企図している。旅費部分については、計画最終年、もしコロナ禍が明けていれば先端研究のインタビュー調査として利用できる可能性があるので、一部は確保しておく計画である。その他の部分については、基礎理論の研究に関する書籍費などとして活用することが考えられる。
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