2021 Fiscal Year Research-status Report
働き方と社会保障の関係の再定位:基礎理論と「社会保障実践」の両面から
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20K01340
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
山下 慎一 福岡大学, 法学部, 教授 (10631509)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スポーツ選手と社会保障 / SDGsと社会保障 / 自営業者と社会保障 / 法解釈方法論 / 立法者意思 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、(1)基礎理論に関わる研究、(2)先端的な研究の両者において、一定の成果を上げることができた。 まず、(1)基礎理論に関わる研究としては、立法者意思と法解釈方法論に関わる研究成果を得た。これは、本研究にとって非常に重要な成果である。というのも、本研究のテーマ(働き方と社会保障の関係)は、個々人の人生観や社会観、国家観に深く根差すため、相対立する価値観の争い=「分断」を生じやすい議論である。よって本研究は、検討の進め方やその発信方法について、異なる価値観を有する両者が共有可能な部分とそうでない部分を適切に切り分けつつ、どこで議論が分岐するのか、その理由は何かを逐一明らかにしたうえで論理を展開するアプローチを採る必要があると考えられる。上記の研究成果は、そのアプローチの試論となるものである。 つづいて、(2)先端的な研究としては、日本においては労働者(被用者)とは扱われないプロスポーツ選手をテーマとして、自営業者(個人事業主・フリーランス)と社会保障の関係における問題点を明らかにした。研究成果は、JP総研リサーチ誌にて連載(3回)の機会を与えて頂いた。この研究成果では、プロスポーツ選手の直面する問題は、働き方が激変する現代においては、実は社会一般の縮図となっている、ということを示すことができたのではないかと考えている。さらに、近時とくに大きく取り上げられている「SDGs」について、社会保障領域でも用いられてきた「持続可能性」概念との関係を論ずる研究成果を得た。 なお、2020年度の本研究にかかる成果(単著「日本国憲法における「勤労の義務」の法的意義」)が、第15回社会倫理研究奨励賞(2021年12月:南山大学社会倫理研究所)を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現時点において、(1)基礎理論に関わる研究、および(2)先端的な研究の2点については、当初の計画以上に進展している。しかしながら、(3)これら両者を融合させた研究成果の講評準備作業が、予定通りには進んでいない部分がある。これら両者を総合すると、全体としては、おおむね順調に進展していると言える。 第一に、(1)基礎理論に関わる研究では、議論の「方法論」に関わる部分にまで研究が展開したのは、研究計画の当初は想像もしていなかった展開であった。(2)先端的な研究についても、スポーツ選手のメンタルヘルスや、SDGsといった時宜にかなったテーマを取り上げつつ、基礎理論との関係を意識した議論を展開できており、この点も当初の期待以上の成果と言える。 しかし他方で、第二に、当初予定していた研究機関の3分の2を終え、最終的な成果の公開に向けた道筋を描くべき時期に来ているが、それはすこし見込みよりも遅れている。というのも、成果公表のフェーズでは、上記(1)基礎理論に関わる研究、および(2)先端的な研究を融合する必要があるのであるが、現時点では(1)・(2)各個別の展開が当初の見込み以上に広がっているため、それらを収れんさせて融合させるのには尚早な感があるためである。
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Strategy for Future Research Activity |
上記【現在までの進捗状況】で記した通り、2022年度は3年間の研究期間の最終年度として、成果公表に向けた道筋を建てる必要がある。しかしながら、せっかく大きく展開しつつある研究を無理に小さくまとめてスケールダウンさせるのは、設定した研究テーマのスケール感との関係からすれば本末転倒であるため、スケジュールをにらみながら、どの程度まで(1)基礎理論に関わる研究、および(2)先端的な研究を個別に展開させていくか、どの段階で(3)これら両者を融合・収れんさせて成果公表に向けた準備を始めるか、極めて微妙なかじ取りが必要である。場合によっては、(3)の融合・収れんのフェーズを思い切って遅らせるという判断も必要になってくる可能性がある。 上記の点以外は、研究を遂行する上での課題は現時点において特に見当たらないが、コロナ禍の推移など研究者自身では対処困難な要因もあるので、適宜柔軟に進めていきたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍に伴い、出張旅費が予定通りに執行できなかったことにより、次年度使用額が大きく生じた。 使用計画としては、(1)コロナ禍の状況に応じて、これまで取りやめていた出張を実施すること、および、(2)出張を代替することが可能な方策(例えば、ZOOM等による研究会への出席謝金や、研究成果の草稿などをチェックしてもらうことに対する謝金の支出など)を講じることで、次年度使用額を適切に執行する予定である。
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