2021 Fiscal Year Research-status Report
長期にわたる死体の隠匿事例をめぐる死体遺棄罪の擬律判断に関する研究
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20K01341
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松尾 誠紀 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (00399784)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 刑法 / 死体遺棄罪 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、長期にわたる死体の隠匿事例に関する死体遺棄罪の擬律判断を明確にするという最終目標の達成に向かって、その中でも特に、その重要性に比して学説上の検討が不十分である、①作為による死体遺棄と埋葬義務違反に基づく不作為が併存する場合に、犯罪事実として不作為犯を切り取ることは可能か、可能だとしていかなる範囲に限定すべきか、②隠匿している死体を移転させた場合、死体の新たな遺棄はいかなる場合に認められるのか、という課題の解決を目的とするものである。 上記の研究目的②を達成するための具体的検討課題として、第一に、死者に対する敬虔感情という保護法益の実体解明、第二に、それに対する侵害内容の実体解明がある。本研究課題の2年目にあたる2021年度は、これらの具体的検討課題に取り組むため、ドイツ刑法168 条の保護法益に関するドイツの文献資料、およびわが国の死体遺棄罪の保護法益、その侵害内容理解に関する判例資料・文献資料を収集し調査・検討を行った。また、こうした研究から得た基礎理解に基づいて、死体遺棄罪の保護法益論とその法益侵害のあり様、不作為による死体遺棄罪における埋葬義務主体、死体遺棄罪に関する公訴時効制度論をテーマに、他大学の研究者を交えての研究打ち合わせを行った。 上記の2021年度に実施した研究の成果は、日本刑法学会および宗教法学会での研究報告、さらに、松尾誠紀「不作為犯論の系譜―『作為と不作為の区別』を中心に―」内田文昭先生米寿記念『刑事法学の系譜』(2022年)および同「死体遺棄罪における保護法益の実質とその成否判断――死体の新たな遺棄の有無を題材に――」北大法学論集72巻5号(2022年)49頁という二つの論文に結実した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の2年目にあたる2021年度は、第一に、死者に対する敬虔感情という保護法益の実体解明、第二に、それに対する侵害内容の実体解明に取り組み、その研究の成果として、2つの学会報告および2つの研究成果論文を発表できた。 また、2021年5月の日本刑法学会大会において、「死体遺棄罪」をテーマとするワークショップのオーガナイザーを務めたが、その準備の過程で、研究打ち合わせを行い、その中で研究成果の中間報告の実施およびそれに対する多数の貴重な意見を獲得することができた。また、ワークショップの実施時においても参加者から多数の貴重な意見を獲得することもできた。こうした過程は本研究の大きな推進力となっている。 以上のことから、研究計画はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度前半は、死者に対する敬虔感情という保護法益理解およびその侵害内容の実体解明を目的に、特にドイツ刑法168 条の保護法益に関するドイツの判例資料・文献資料の収集・調査・検討を継続的に実施し、それを研究成果として結実させていきたい。 2022年度後半は、公訴時効制度に基づいた不作為による死体遺棄罪の制限根拠を確立するために、判例資料・文献資料を収集し調査・検討を行う。さらに、2022年度の研究成果を踏まえて、他大学の研究者との研究打ち合わせを行い、より正確な理解の獲得に努めたい。
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Causes of Carryover |
2021年度の研究費において次年度使用額が生じたが、その原因として、新型コロナウイルス感染症をめぐる状況により、研究報告を実施した2つの学会がいずれもオンラインでの開催となったこと、また、その準備段階における打ち合わせもオンラインでの開催となり、その結果として国内出張ができなかったことが挙げられる。さらに、同じく新型コロナウイルス感染症の理由から、ドイツでの入国制限および帰国後の行動制限等の事情を考慮し、ドイツでの資料収集および研究打ち合わせの実施を見送らざるをえなかった。2021年度に実施できなかったドイツでの資料収集や研究打ち合わせについては、2022年度に実施する予定である。
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