2020 Fiscal Year Research-status Report
未成年被害者と被害者の承諾論―未成年者保護のための承諾論再考
Project/Area Number |
20K01342
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐藤 陽子 北海道大学, 法学研究科, 教授 (90451393)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 刑法 / 刑事政策 / 未成年者の保護 / 被害者の承諾 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、未成年者の長期的利益を考慮した承諾論の再構築にある。再構築する際には、①未成年被害者の承諾を制約する方向性と、②未成年被害者の法益処分を推進する方向性の二つの異なる方向性があるが、2020年度は①に関する研究を行った。具体的には、ア.成人・未成年問わず、総論的に「被害者の承諾」を制約するための法理としてどのようなものがあるのか、イ.各論的に、とりわけ性犯罪及び未成年者略取・誘拐罪を中心に、未成年者の承諾を制限する際には、どのような説明が行われているのか、の二点を研究し、その上でアとイの知見の統合しつつ、未成年者の承諾をいかに制限すべきかについて考察した。 アにおいては、わが国が解釈の模範とするドイツの承諾論も参照しつつ、わが国の判例実務では、合意(:構成要件を阻却する承諾)と同意(:違法性を阻却する承諾)の区別なく、社会的相当性の基準により、被害者の承諾が制限されていることを確認した。 イでは、未成年者の承諾が、承諾無能力の擬制や、判断能力の未熟を理由とする真意性の否定、身体の安全や生命といった個人(又は若年の未成年者)に放棄不可能な法益を追加することによる処分権の否定などにより、制限されていることを確認した。 ア及びイの両者をあわせて検討することにより、わが国では未成年者の「健全育成」という視点が、刑法典上の犯罪類型において、極力触れられないようにされている状況を見出すことができた。これは、性犯罪において顕著であり、「健全育成」の視点は、青少年保護育成条例や児童福祉法といった特別法で保護されるべきものとされているようであった。しかし、学説上は、刑法典上の性犯罪においても「健全育成」の視点を重視するものもあり、今後、「健全育成」の視点が、刑法解釈上に広く影響を及ぼしていく余地も見出すことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、未成年者の長期的利益を考慮した承諾論の再構築にある。再構築する際には、①未成年被害者の承諾を制約する方向性と、②未成年被害者の法益処分を推進する方向性の二つの異なる方向性があるが、現在のところ、①に関する研究を行っている。①に関する研究はア.総論的な研究と、イ.各論的な研究に区別できる。アについては、概ね研究を終えたと考えている。イについては、なお研究すべき犯罪類型がいくつか残されており、この点について、今後も研究を続ける予定である。 このような進捗状況は、当初予定した通りのものであるが、コロナ感染症の影響で、他大学での研究報告の機会を得られなかったり、ドイツでの資料収集の機会を失っているため、今後、これらの作業をあわせて行う必要があるものと思われる。この点で、「おおむね順調」との評価を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、未成年者の長期的利益を考慮した承諾論の再構築にある。再構築する際には、①未成年被害者の承諾を制約する方向性と、②未成年被害者の法益処分を推進する方向性の二つの異なる方向性があるが、現段階においては、なお、①に関する研究の一部と、②に関する研究の全般に関する研究を行う必要がある。 ①については、各論的研究を中心に行うことになる。とりわけ、未成年者が保護客体となる遺棄罪の研究を行う一方で、諸外国において未成年者が保護客体となる構成要件(たとえば、ドイツ刑法171条:16歳未満の者に対する配慮義務又は教育義務を著しく侵害し、それによって被保護者を、身体的若しくは精神的発展が著しく害される、犯罪的素行(kriminellen Lebenswandel)に至る、又は売春を行う危険に至らしめた者は、3年以下の自由刑又は罰金刑に処する。)に関する研究も行う予定である(2021年度中)。 ②については、総論的な研究が中心となる。とりわけ、推定的承諾、代諾、仮定的承諾といった、被害者の承諾のいわゆる代替物について研究を行う予定である。承諾能力のない被害者に対する法益侵害を許容する根拠、及び要件につき、理論的な研究を行いたい(2021年度及び2022年度中)。
|
Research Products
(1 results)