2021 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ刑法典における道路交通犯罪のわが国への導入可能性の実証的・立法論的研究
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20K01343
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
内田 浩 岩手大学, 人文社会科学部, 教授 (90361039)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 危険運転 / 因果関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、飲酒運転やあおり運転に代表される悪質・危険な道路交通における危険運転事犯に対する、刑事責任の追及および行政処分を含めた最適な抑止策を検討することを目的としている。 昨年度は、以上の目的を達成するための第1段階として、いわゆる「東名あおり運転事件」に関する考察を中心に、自動車運転死傷行為等処罰法および道交法の改正を視野に入れた検討を行った(上記事件に関しては、令和元年12月4日の東京高裁判決を受けた差戻後の裁判員裁判が本年3月30日に横浜地裁で始まり、その帰趨が注目される)。 本年度は、ドイツ刑法典の「道路交通の危殆化(315条c)」を主たる考察の対象とした。同罪は、わが国の(準)危険運転致死傷罪とは異なり、他の交通関与者の死傷結果の発生をその成立要件とするものではない。しかし、同罪は、酩酊運転や逆走等の危険運転が他人の生命・身体等に危険をもたらした場合を処罰する犯罪類型であり、その危険運転行為と危殆化結果との客観的帰属要件、主観的成立要件(同条1項第2号柱書にいう「無謀に」や、同3項の危険結果惹起に対する「過失」など)は、わが国の危険運転致死傷罪の成否を考える際に重要な参考資料を提供する。と同時に、同罪の成立は、「原則」としての「運転免許取消」の要件をなすのみならず(同法典69条2項1号)、運転不適格者としての欠格期間「6月以上5年以下」が「無期限」に延長される「保安処分」の前提をなすものである(同法典69条a第1項)。 このようにドイツ刑法典における「道路交通の危殆化」は、行為者本人に対する刑事罰の観点からだけではなく、社会防衛としての観点からも重要であることから、本年度は、その基底をなす同罪の本質・成否に関する判例・学説の検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、ドイツ刑法315条cの成立要件に加え、同条の成立が認められた場合に課される「保安処分」としての「運転免許の停止」、および「運転免許の永久はく奪」について検討する予定であったが、予定していた文献収集が叶わなかったこと(概説的なコンメンタール類を除き、道路交通事犯に関するドイツのモノグラフィーを入手することはできなかった)、さらに、東京の実家で終末期を送っていた父が令和3年12月26日に他界するといった個人的な事情もあり、上記の本年度の研究計画を予定通り遂行することはできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
自動車運転死傷行為等処罰法・道路交通法の改正がなされた後も、たとえば2021年6月28日に下校途中の児童5人の死傷をもたらした千葉県八街市における飲酒運転事故に象徴されるように、必ずしも上記法改正の目的が達成されているとはいえない。本年度は、令和2年度からの検討結果を踏まえながら、負のスパイラル的な側面もないわけではない厳罰化には一定の距離を置きつつ、しかし、悪質・危険な道路交通事犯の最適な抑止に向け、ドイツ刑法典における運転免許の永久はく奪という保安処分の導入の可否を含めた、わが国における新たな立法(現行・危険運転致死傷罪の成立範囲のさらなる拡張の当否を含む)の可能性を検討し、それを論文等で公にする予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染防止のため、県外への出張を見合わせたことから、前年度に予定していた旅費の支出がなかったため。
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