2022 Fiscal Year Annual Research Report
ドイツ刑法典における道路交通犯罪のわが国への導入可能性の実証的・立法論的研究
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20K01343
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
内田 浩 岩手大学, 人文社会科学部, 教授 (90361039)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 危険運転 / 改善・保安処分 |
Outline of Annual Research Achievements |
わが国の道交法は、道路交通における将来の危険性の予防を目的とする「運転免許の取消し」を定めている。取消し後、再度の免許取得に要する欠格期間は、危険運転致死傷罪や飲酒運転罪等を含め、最長「10年まで」である(同法103条8項)。 これに対して、ドイツの場合、わが国の危険運転致死傷罪に相当する罪に対する刑は、わが国に比べ、極めて軽い(「致死」の場合でも、過失致死罪〔§222=法定刑の上限は5年〕と道路交通危殆化罪〔§315c第1項=同〕の観念的競合として処断刑の上限は5年である。§52②〕)。しかし、ドイツ刑法は(改善)保安処分として運転免許の「永久剥奪」を定めている。同法は、わが国の危険運転致死傷罪の基本犯の多くに相当する「道路交通危殆化罪(§315c)」に該当する行為を行った者は、原則として「運転不適格者」とし(§69②Nr.1)、「欠格期間」を「6月以上5年以下」とする一方で、それでも同人の危険な運転が懸念されると予測される場合は、欠格期間を「無期限」に延長する(§69 a ①)。 このように、わが国の場合、過去になされた不法に対する制裁が重い一方(危険運転致死傷罪の法定刑の上限は20年)、その目的(将来における道路交通の危険防止)はドイツ刑法における(改善)保安処分と同一である運転免許の欠格期間が最長10年までなのに対して、ドイツ刑法では、前者と後者の関係が逆転している。仮に、そのことによって、わが国とドイツとで、悪質・危険な道路交通事犯の発生件数に有意な差が見られないならば、わが国の近時の立法例あるいは裁判例(の一部)にみられるような、世論追従的な(拡張解釈による〔後者〕)厳罰化に訴えるのではなく、刑罰以外の「事前規制を厳しくする」という方途に、悪質・危険な自動車運転抑止の最適解を求めるべきではないか、との提言を行った。
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