2021 Fiscal Year Research-status Report
捜査活動と公正な裁判を受ける権利の保障―欧州人権条約6条をめぐるEU諸国の対応
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20K01346
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
宮木 康博 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (50453858)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 公正な裁判を受ける権利 / おとり捜査 / 欧州人権条約 / Akbay v. Germany / Furcht v. Germany |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、公正な裁判を受ける権利をめぐる欧州人権裁判所の判例分析および当事国となったドイツ判例の展開について検討を加えた。当初,欧州人権裁判所判決は,犯罪誘発によって訴追された場合の法的帰結について,「公正であるためには,警察の扇動の結果として得られたすべての証拠は除外されなければならず,あるいは同様の結果をもたらす手続が適用されなければならない。」としたことから,これを受けたドイツの裁判所は,同規定の基本的な要請が満たされている限り,国内法により適合する別のアプローチを採用することも許されるとして,量刑による解決を維持してきた。しかし,Furcht判決は,量刑による解決では,問題のある証拠を除外することと同様の帰結をもたらすものと考えなかった。連邦憲法裁判所は,同判決が国内の法制度を拘束するものとは位置付けなかったが,その後第2刑事部が訴訟障害を認める判決を下したことで国内裁判所の統一はとれなくなり, Akbay判決によって、さらに厳しい評価を受けることになった。 わが国への示唆としては、欧州人権裁判所判決が,犯罪誘発があった場合には公正な裁判を受ける権利を侵害するため,「何人も,たとえ部分的であっても,犯罪を犯すように国家が誘発した結果としての犯罪行為を処罰してはならない」としているように,おとり捜査の問題の核心は,国家が創出した犯罪を理由に被誘発者を訴追し処罰することの不当性,すなわち,国家が創出した犯罪が訴追や処罰の理由足り得るかにこそあるのではないかと目を向ける契機を与えてくれる点である。もっとも,同原則は,いかなる場合に特定の訴訟行為を求め,違反した場合にどのような帰結が導かれるべきかなど,依然として不明確な点がある。本年度研究で十分に取り組むことのできなかった学説の動向も含め,さらに研究を進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍にあって,欧州でのリサーチは実現できていないが,文献収集は順調に行うことができており、関連する欧州人権裁判所判決およびドイツ連邦通常裁判所判決やドイツ連邦憲法裁判所判決も一通り分析を終えることができた。 ただし,学説についてはまだ一部の検討に留まっているため、おおむね順調とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,本年度の研究において分析整理した欧州人権裁判所判決およびドイツ連邦通常裁判所判決やドイツ連邦憲法裁判所判決をめぐる学説の動向について網羅的に検討を加える予定である。また,いまだ不明確さの残る欧州人権条約6条1項の「公正な裁判を受ける権利」の意義や射程、侵害した場合の法的効果などについても検討を加える。その上で,時間の許す限り,本年度の研究過程で目にした興味深い展開を辿っているオーストリアなどについても対象に加えたいと考えている。
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Causes of Carryover |
海外渡航でできなかったことによる。新年度も困難であるように思われるが、外国語文献の購入等を中心に使用させていただく。
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