2023 Fiscal Year Annual Research Report
捜査活動と公正な裁判を受ける権利の保障―欧州人権条約6条をめぐるEU諸国の対応
Project/Area Number |
20K01346
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
宮木 康博 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (50453858)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 欧州人権条約6条 / おとり捜査 / 公正な裁判を受ける権利 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本でも公正な裁判を受ける権利については、憲法および刑訴法の領域において議論がなされているものの、その中核は、被疑者、被告人の防御権におうところが大きいところ、本研究では、おとり捜査との関係で検討を加えている。欧州人権裁判所では、いわゆる犯罪誘発型のおとり捜査に対し、公正な裁判を受ける権利の侵害を理由に証拠排除の帰結を示した1998年のTeixeira判決を皮切りに、各国での対応が活発に議論されることになったが、中でも国内法との間で激しい議論が展開されたのがドイツである。ドイツの判例法は,ヨーロッパ人権条約 6 条1項に規定されている公正な裁判を受ける権利と,効果的な刑事訴追における公共の利益とのバランスを評価することによって,許される犯罪誘発と許されない犯罪誘発とを区別する 。しかし,本判決は,従来の判例法と同様に,「犯罪を防止し捜査することが警察の任務であること」を根拠に,重大犯罪を解明するという公共の利益を理由に,法の支配に反する犯罪誘発と法の支配に従った許される犯罪誘発とを区別することを許容しない。本件では,国内裁判所も法の支配に反する犯罪誘発があったものと認定したことから,この点が直接的に問題とはならなかったが,ドイツでは,本判決を踏まえて,Furcht判決以降の立法化に向けた議論がより一層進められている。法的帰結については,判断基準以上に,立法的解決が強く望まれている。この点は,2020年のAkbay判決が,量刑による解決では不十分であることを再確認するだけでなく,証拠の禁止に加えて,初めて,補償の適切な形として,訴訟手続の打切りを明示的に宣言したことによる。連邦通常裁判所第1刑事部は,2021年12月16日の判決 において,量刑による解決と証拠禁止による解決の双方を否定したが,目新しい理由は何ら示されていない。今後の立法論議や判例の展開が注目される。
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