2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K01347
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池田 公博 京都大学, 法学研究科, 教授 (70302643)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 刑事訴訟法 / 捜査法 / 任意捜査 / 同意 |
Outline of Annual Research Achievements |
捜査機関が捜査活動の過程で,捜査の対象となる者の同意を得て一定の処分を行う場合,処分の正当性ないし適法性は,捜査対象者の意思に基づいて根拠づけられることとなる一方,同意が状況の推移に応じて柔軟に,反面明確でない形で与えられるために,その存否や及ぶ範囲について,捜査機関と捜査対象者との間で認識に相違が生じるおそれもある。とりわけ,働きかけが捜査目的で行われたことを知っていればそれに応じることはなかったという場合に,その同意に捜査機関の活動の適法性を支える効果を結びつけること,すなわちその有効性を認めてよいかが問題となる。この点について近時の裁判例には,処分が「合理的に推認される個人の意思」に反して行われたのであれば同意は無効であり,働きかけが捜査目的に基づくと知っていればそれに応じなかったと思われる場合も,「合理的に推認される個人の意思」に反する場合にあたるとしたものがある。こうした「合理的に推認される個人の意思」を考慮する考えは,学説上も有力な立場であるが,本来的には捜査対象者が捜査上の処分の実施をおよそ知り得ない場合を想定した用語法であり,何らかの働きかけの存在を知ってそれに同意を与える場合に関するものではなかった。本研究は,以上の議論の経緯を示した上で,上記裁判例は上記の用語法を、その適用が本来的に想定されていた文脈を離れて過度に拡張的に用いたものであり,その定式は最高裁判例も採用したものの,その射程は処分の存在自体を知り得ない者との関係にのみ及ぶべきものとの評価を示した。加えて,「合理的に推認される個人の意思」を念頭に置くこと自体が,「正当な目的で実施される捜査活動には同意するのが合理的だ」という,「同意の擬制」を可能にし,相応の侵害性を有する捜査活動であっても,明確な根拠規定によることなく適法に実施される可能性をもたらすことから,謙抑的であるべきとの理解を述べた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画上は,我が国の議論状況に関する文献研究に加えて,他の研究者,実務家等との意見交換,また外国の文献研究や実地調査を行う予定であったが,新型コロナウィルス感染症の感染拡大を受けて,広範囲の移動を伴う,人的交流を介した研究手法を用いることが事実上不可能となり,研究計画の一部の実施を断念せざるを得なくなったことによる。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画の大幅な変更はしないが,研究手法としての文献調査については,国内外の研究者の協力を得て,感染拡大状況の推移に留意しつつ、可能な範囲で取り寄せ等を活用して行うこととする。また,積極的にオンラインでの研究打ち合わせ,意見交換の機会を設けることによって,研究計画の進捗の遅れを取り戻すとともに,研究の進展に応じて得られた成果を公表することとする。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受け,研究の進捗に遅れが生じ,また,研究手法として想定していた出張を伴う意見交換や文献収集の実施を断念したことから,次年度使用額が生じた。今年度は,感染状況の推移を見極めつつ,可能な範囲で必要な出張を実施するが,これにより賄えない場合には未使用額分を充当して広範囲に文献収集を実施することとする。
|