2020 Fiscal Year Research-status Report
保護観察への民間参入のモデル論と持続可能な保護観察制度に関する総合的研究
Project/Area Number |
20K01351
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
土井 政和 九州大学, 法学研究院, 特任研究員 (30188841)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 保護観察の民営化 / ソーシャルワーク / 民間団体 / 更生保護 / 福祉 / 処遇モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、保護観察への民間参入の諸形態を国際比較研究によって類型化し、その長短を分析するとともに、犯罪行為者処遇理論をも考慮しつつ、保護観察の理念であるソーシャルワークを発展させた持続可能な保護観察制度論を構築することを目的とする。実証的比較研究として、特にイギリスおよびドイツにおける最近の保護観察の民営化の形態及び試行とその挫折の経緯と背景を実証的に分析するとともに、フランスの保護観察と民間(福祉)団体等(アソシアシオン)との連携のあり方について調査を行う。それらと、日本の保護観察における保護司、福祉機関(団体)、ダルク等自助組織、民間ボランティアの民間参入の諸形態とを比較検討し、日本の保護観察の発展可能性を探る。この比較研究に基づき、民間参入形態を四つのモデルに分類して分析し、また、最近の犯罪行為者処遇理論であるRNRモデル及びGLモデルとの関係を検討する。そのうえで、ソーシャルワークの理念を発展させた持続可能な保護観察制度論を構築することが本研究の概要である。 コロナ禍で、日本及び外国での聞き取り調査ができなかったため、日、英、独における保護観察の民営化に関する文献・資料を収集し、その整理と分析を行った。英国では、20世紀末から21世紀初頭にかけて、保護観察の刑罰化、中央集権化、管理主義・成果主義の貫徹、民営化へと大きくシフトし、保護観察の初期の理念であるソーシャルワークから一般市民の保護へと政策が転換してきたことを歴史的に確認した。ドイツでは、バーデン・ヴュルテンベルク州において、2007年から10年間、 州政府によって保護観察業務全体を民間団体に委託する試みが行われ、その成果評価書が公表されている。その分析を継続しつつ、この試みが挫折したのちの同州の保護観察体制の現状分析を行っている。これに関連して、各州における再社会化法案の立法案及び議論についても検討している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、日本の保護観察における民間参入(民営化)の実態を、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡、那覇の保護観察所及び民間団体等に聞き取り調査を行うこと、また、英(ロンドン等)、独(フライブルク等)、仏(パリ等)についても同様の調査を行う予定にしていた。しかし、今年度は、コロナ禍のため、現地におけるインタビュー等による実態調査を全く行うことができなかった。これは次年度以降に延期することにした。現地での実態調査に代えて、本テーマに関する各種の実態調査報告書や各機関の実践報告、研究論文やweb情報などを収集・整理した。①日本については、政府関係文書、法務省による更生保護施設や保護司などに関する報告書、性犯罪対策などの立法案、条例等、地域生活定着支援センターの活動報告など、②イギリスについては、保護観察民営化に関する司法省関係報告書、報道機関による記事、研究論文など、③ドイツについては、再社会化法モデル案、出所者支援のための実態調査と研究論文、バーデン・ビュルテンベルク州における保護観察体制の改革とその資料、保護観察における統制と支援の衝突に関する文献資料、RNRやGLMなどの処遇モデルに関する研究論文などを収集・整理することができた。④フランスについては、保護観察とアソシアシオンの関係についての資料を収集中である。 以上、現地調査ができなかったため、実態把握にやや遅れが生じているが、それに代わる文献や資料は予想以上に収集することができた。現在は、それらの分析検討を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
コロナの終息が実現すれば現地での聞き取り調査等に取り組むことができるが、その時期が具体的に予測できない現状では、Webによる情報収集や公表されている文献・資料などに基づく研究を遂行せざるをえない。保護観察の民間参入(民営化)に関する情報を今後も収集整理するとともに、それらを読み込み、日、英、独、仏の現状把握に努める。また、国による保護観察と民間団体等の関与の形態を4つのモデルに分類・整理するという当初の研究方法に従って、モデル間の相互関係の把握に着手する。同時に、各国において保護観察制度の在り方を見直すことになった社会的背景と制度改革の功罪についても分析を進めていく。例えば、イギリスでは、2014年の改革によって、高リスクの保護観察対象については国の保護観察官が担当し、中・低リスクの保護観察対象者の処遇を21の民間の社会内更生支援会社に委託したが、現在この改革については厳しい批判が展開されている。その改革の背景並びに運用実態及び帰結について情報を収集し、保護観察への民間参入の展望について検討する。また、ドイツでは、日本の更生保護法にあたる法律がないために、近年刑務所からの出所者の社会的現状調査と制度改革(再社会化法案策定)が進められているが、それらと保護観察及びソーシャルワークの関係性についても検討を進める。フランスでは、地域に様々な福祉的支援を行うアソシアシオンが存在し、保護観察対象者やその他出所者等にも多様な支援活動を展開している。そのアソシアシオンは、国の保護観察制度に篤志団体として組み込まれているわけではなく、独立した設置目的をもって活動している。このアソシアシオンと保護観察の関係についても情報の収集・整理を継続する。
|
Causes of Carryover |
現地に赴き聞き取り調査を行うための旅費を計上していたが、コロナ禍により現地調査が全く実施できなかったため次年度使用額が生じた。次年度に物品費として図書の購入に充てる予定である。 翌年度分として請求する助成金においては、現地調査のための旅費40万円、図書費及びパソコン周辺機器等の物品費35万円、複写費等のその他経費5万円を充てる予定である。
|