2020 Fiscal Year Research-status Report
捜査におけるDNA型データの収集・保管・利用に関する手続的規制の比較法的研究
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20K01358
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
岡田 悦典 南山大学, 法学部, 教授 (60301074)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 刑事訴訟法 / 捜査 / 強制処分 / DNA / 捜索 / 押収 / プライバシー |
Outline of Annual Research Achievements |
アメリカ合衆国におけるDNA資料の捜査利用の法、判例について研究を進めた。 まず、アメリカのDNAデータベース拡大の状況を、1990年代から2000年代の20年間の概況につき調べつつ、Maryland v. King 事件判決(569 U.S. 435, 2013)について検討した。同判決は、DNAデータベースに保存されていた被告人のDNA資料の利用について、アメリカ連邦最高裁が初めて合憲であるとした。しかし反対意見もあり議論が分かれていたこと、多数意見でも、収集及び利用の在り方について制限的法理を採用したことが明らかとなった。また、DNA資料は情報収集の中身が制約されたDNA資料をデータベースに利用していることも、合憲性を導く論拠になっていることがわかった。 この判決をめぐっては、2010年代に様々な論文が出され、議論が錯綜していることもわかった。そのことから得られる示唆として、①特に、Maryland v. King 事件判決の法理の意義として、被疑者の同定のための利用か、過去の未解決犯罪のリンクのための利用に限定されると言う「最小限法理」を強調する指摘が示唆的であった。また、②「捨てられたDNA」に対する規制が重要であること、③データベースにおける「証拠汚染」の問題を解決すべきこと、などの課題が議論されていることも示唆的であった。さらには、④データベース構築のためのDNA資料採取については、立法が必要であり、アメリカ州立法は未だ不十分であるとともに、DNA採取には「相応の理由」が必要であり、(すでに数州で立法化されているものの)抹消手続も全米的に整える必要があるとする指摘も、示唆的な発見であった。こうした成果とともに、アメリカ各州の立法状況を精査する作業に取り掛かっている。また、わが国のDNAデータベース構築に関する法規制の議論の歴史についても概要を整理した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目は、まず、研究テーマの取り掛かりであったため、やや五里霧中のところから、総論的な作業を行うこととなった。1年目については、本来計画していた対象国であるイングランド・ウェールズの状況を調べることを控えて、予定を変更し、アメリカ合衆国の状況を調べることを主眼とした。それは、比較的情報入手がしやすかったことと、アメリカにおいても、大変に議論が盛んになりつつあり、多数の論文が公表され始めていた、ということによる。また、日本の状況についても、順調に進めることができた。 これらのことから、1年目にして、大いに収穫があったものと認識できているからである。特に、日本では、DNAデータベースの構築、捜査利用については、学界でもあまり取り上げられることなく、議論はまだ途上にあると思われる中で、アメリカでは、捜査法の判例理論の中でとても重要な問題として取り上げられつつあることを知り、その認識の差はかなりのものがあると思われたからである。また、この問題に付随する法的問題、特に立法問題や立法の在り方に関する問題へと派生することを知り、さらには、わが国の判例法理、特に強制採尿などをめぐる判例法理や領置手続について再検討をする必要性があることも認識できたからである。 ただ、アメリカ法においても、州立法の分析は難業であり、また議論状況を正確に整理することも、まだ作業途中である。そこで、アメリカ法の分析についても、今後さらに精査していく必要がある。 以上のことから、アメリカ法及び日本の議論状況を概ね分析することができ、その成果を、研究会でも2020年1月に報告することができた。もっとも、分析がまだ十分ではないところがある。このことを鑑みると、計画以上に進んでいるわけではないものの、研究は概ね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に向けては、引き続き、アメリカ法の分析における残された課題を検証していくこととしたい。特に、Maryland v. King 事件判決における、アメリカの議論の分析を完成させるとともに、州立法の動向について、分析をまとめることが、当面の課題である。また、Maryland v. King 事件判決に影響を与えているアメリカ判例法についても、必要に応じて検討を拡大させていくことが、次なる課題である。 これと並行して、日本における、いわゆる体液などの捜査についての議論、手続を改めて検証していくことを、次なる研究の進展として行うこととする。 2021年度後半には、研究進展のための次なる方向性として、アメリカ法の研究の目途が立った段階で、本来最初に研究対象として予定していたイングランド・ウェールズの比較研究に取り組むこととしたい。
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Causes of Carryover |
コロナ・ウィルス感染症の蔓延により、国内外への移動が極端に制約された。そのため、旅費などに計上した予算を利用する機会が奪われてしまったことから、研究対象を、主にアメリカ合衆国に定め、国内外の公刊研究書籍、判例・論文などの文献調査を綿密に行うこととした。その結果、次年度使用額が生じたというのが、主な理由である。
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