2020 Fiscal Year Research-status Report
自主占有者に対する返還請求権を中心とした所有権に基づく物権的請求権の再編の試み
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20K01363
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
阿部 裕介 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 准教授 (20507800)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 所有権 / 取戻訴権 / 占有代理関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、所有者の取戻訴権をめぐる19世紀フランス法の判例及び学説を収集し、これに分析を施した。 不動産の取戻訴訟の被告適格に関しては、当初は、被告適格を、所有者として占有する者に限定する学説が有力であったが、次第に、他者のために目的物を所持する仮所持者に被告適格を認める学説が有力化していた。もっとも、そのような学説においても、仮所持者の被告適格は、占有者を知らない原告による取戻訴訟の提起ひいてはそれによる時効の中断を容易ならしめるための、暫定的なものと考えられていた。そこで念頭に置かれていたのは、賃貸不動産につき賃貸借契約外の第三者が賃借人に対して所有権を主張して取戻訴訟を提起した場合に、賃借人が賃貸人の名を示すことで訴訟脱退することを認める、民法典1727条であった。判例は、この場合に、第三者の賃借人に対する取戻訴訟を受理しないことで、賃貸人に手続保障を与え、所有権の帰属をめぐる争いを、所有者であると主張する者同士の間で解決させていた。 他方で、学説は、寄託物について寄託契約外の第三者が所有権を主張する場合にも、所有権の帰属をめぐる争いは所有者であると主張する者の間で解決されるべきである、という原則を維持していた。もっとも、その理由としては、受寄者に所有権の帰属を判断させ誤判断の危険を負担させるべきでないという点が重視されていた。 賃借人や受寄者などの仮所持者が第三者の取戻訴訟に応訴して敗訴した場合、訴訟の当事者とされなかった賃貸人や寄託者などの占有者は、第三者再審の申立てによって自己の利益を守ることができるとされていた。これは、仮所持者の敗訴判決によって占有者が害されることを前提とするが、占有者がいかなる意味で害されるのかには議論の対立があり、かえって、占有者が害されることは自明とは言えないことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大の影響で資料収集に予期しない制約が生じたものの、19世紀フランス法学に関する研究をおおむね順調に進め、すでに研究成果の一部を公表することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
19世紀フランス法学に関する研究成果の公表を継続するとともに、研究対象を拡大していきたい。研究計画では、今後の研究の方向性として、現代フランス法学と日本法学の2つが示されていたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で在宅勤務が増加しており、現代フランス法学に関する資料へのアクセスが相対的に難しくなっているため、まずは日本法学に関する研究を進めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、出張による資料収集等を行うことができなかった。その代わりに、オンラインでの資料収集やデジタルデータの閲覧などが増えているので、次年度はそのための環境整備を進めたいと考えている。
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