2022 Fiscal Year Research-status Report
自主占有者に対する返還請求権を中心とした所有権に基づく物権的請求権の再編の試み
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20K01363
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
阿部 裕介 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 准教授 (20507800)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 所有権 / 物権的請求権 / 代理占有 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、昨年度に引き続き、これまでのフランス法に関する研究成果を踏まえて、占有代理関係外の第三者が所有権に基づく返還請求を行う際に誰を相手方とすべきか、という問題をめぐる日本法の現状の形成過程を研究し、その成果の公表とを行なった。 まず、明治民法とその起草過程について検討を行なった。昨年度の検討により、旧民法は、物の占有代理人のうち、賃借人については、賃借人の地位を強化する見地から、所有者による本権訴訟の被告適格を認めつつ、物の受寄者については、フランス法と同様に、受寄者を寄託物の所有権をめぐる紛争の当事者とすることを避ける、という構想を有していたことが明らかになった。これに対して、明治民法は、賃借人のみならず受寄者に対する所有者の返還請求をも認めることを前提に、そのような請求を受けた賃借人及び受寄者に、賃貸人及び寄託者に対する通知義務を課している。これらの通知義務を定めた規定には、当時のドイツ民法典(BGB)の草案やラント法の立法例およびスイス債務法典の影響が見られる。このことから、賃借人や受寄者の地位よりも、所有者の引渡請求権の執行の難易という見地から、賃借人のみならず受寄者に対する所有者の返還請求を認めるべきであるという、ドイツ法系で見られた考え方が、無意識的に日本法に持ち込まれたと考えられる。通知義務の規定は、そのようにして所有者の占有代理人に対する返還請求を認めたことで生ずる問題(代理占有者(賃貸人や寄託者)に権利主張の機会を保障する必要性)への部分的な手当てとして位置付けられるが、所有者から返還請求を受けた占有代理人が代理占有者または所有者への返還を拒絶した場合の責任の成否につき解釈論上の問題を残した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドイツ法や手続法など、検討の対象が研究計画時の想定よりも拡大しているため、研究成果公表のペースが予定していたよりも少し遅れているが、継続的に研究成果を公表することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、占有代理関係外の第三者が所有権に基づく返還請求を行う際に誰を相手方とすべきか、という問題をめぐる日本法の現状の形成過程の研究と研究成果の公表を継続したい。具体的には、この問題と関係する民事訴訟法の規定とその起草過程について研究した上で、明治民法制定後の判例・学説の動向の研究に進みたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、昨年度に引き続き、今年度も出張による資料収集等を行うことができなかった。徐々に行動制限が緩和されてきているので、来年度以降は旅費の支出を増やしていくことを考えている。
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