2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K01396
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
上田 竹志 九州大学, 法学研究院, 教授 (80452803)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 判決効 / 時間相関的分析 / 重複訴訟と相殺の抗弁 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、主に重複訴訟と相殺の抗弁についての判例・学説収集および検討を行った。特に、判例において最二小判令和2年9月11日裁時1752号1頁が、最三小判平成3年12月17日民集45巻9号1435頁以来続く一連の判例法理の中で、当該論点における相殺の抗弁の適法性を、実体法的連関を手がかりに拡張した判例であると解釈できる。上記判例については、上田竹志ほか「判例回顧2020民事訴訟法」で特に取り上げて論じたが、引き続き分析を継続する。 また、2020年度末から2021年度にかけて、2021年度の研究計画対象たる、将来給付の適法性に関して、最新の裁判例である東京地判平成31年2月14日判タ1474号235頁を分析している。 また、当事者の時間相関的な紛争行動分析として、上田竹志「紛争処理において『待つ』ことの意義」林田幸広ほか編『作動する法/社会』(ナカニシヤ出版、2021年)98頁を公表した。 また、当初の具体的研究計画に含まれないが、研究計画の全体趣旨に関連する研究活動として、近時のODR(Online Dispute Resolution)における紛争処理の時系列上の分析も行った。特に、近時法制審議会仲裁法制等部会で議論される、調停合意への執行力付与との関係で、エンフォースメントのあり方とのバランスでADR(Alternative Dispute Resolution)手続を設計する状況について、一定の分析を行った。近時のODR活性化検討会取りまとめ等では、さしあたりODRの射程範囲として合意実現フェーズが含まれないが、今後、ADRないしODRの設計を論ずるにあたっては、紛争認知から合意/権利実現に至るまで、時系列全体を俯瞰した上で手続設計を行うことが有用であると考えられ、このことは現在報告者が参加する「ODR推進検討会」でも発言、報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、周知の通り新型コロナ問題により、教育および学内行政上、大きな負担が生じたため、2020年度前期は必ずしも当初の計画通りに研究を進捗させることができなかった。他方、2020年度後期は、研究・教育体制がやや落ち着きを見せたことに加え、上述のように、重複訴訟と相殺の抗弁に関する新たな判例が出たことにより、従来の判例法理との関係で、当該論点に関する分析が一定の進展を見せた。 また、2020年度より報告者が、法務省におけるODR推進検討会に参加する機会を得たことで、訴訟制度外における民事紛争処理の時間相関的な制度設計について、検討を行う機会に恵まれた。特に、渡邊真由氏の研究にかかるDispute System Design理論について一定の分析を行うことで、紛争認知から権利実現までを通時的に把握しつつ、紛争の特性や目指すべきゴール、ステークホルダー等との関係で紛争処理制度を設計するという、これまで日本で主流であった既存制度からスタートする紛争処理論とは異なるアプローチに触れる機会を得ることで、本研究にも多大な示唆を受けることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、はからずも論文投稿の機会がすでに2件決定しているため、2020年度の研究成果に基づいて、まずは重複訴訟と相殺の抗弁について、一定の視点から分析した論考を公表することを予定する。また、状況が許せば、もう1本の論文についても、同論点について別の視点から分析した論考を公表することを目指す。並行して、当初の研究計画にあった、送達の瑕疵と救済に関する問題につき、判例・学説の整理分析を進めることとする。 これと並行して、上述の通り将来給付訴訟につき、まずは東京地判平成31年2月14日に関する評釈を、2021年度前半に公表する予定である。将来給付判決と事情変更については、さらに2021年度内に検討・分析を試み、2021年度から2022年度にかけて、論考を公表することを目指す。 2022年度は、当初の計画通り、主に送達の瑕疵とその救済に関する諸問題につき、論考を公表することを予定する。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナ問題のため、出張旅費の執行が困難であった。また、出張に代替するオンライン会議等に対応するための機材調達についても、必要な機材が品薄等の理由で調達に時間がかかり、2020年度内に執行が終わらないものが複数生じた。 2021年度は、上記コロナ問題の収束が必ずしも見通せないため、通常の研究計画遂行に加えて、オンライン会議、デジタル資料を用いた研究計画遂行のために必要な機材を、引き続き調達する目的で、2020年度に生じた「次年度使用額」を用いることとする。
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Research Products
(1 results)