2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K01396
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
上田 竹志 九州大学, 法学研究院, 教授 (80452803)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 重複訴訟と相殺の抗弁 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、第1に、研究計画中で主要な検討対象たる「重複訴訟と相殺の抗弁」について検討を行った。すなわち、訴訟過程において当事者が行う個別の行為選択や、その積重ねとしての行為系列の当否を論拠にする動態的視点から、「訴えの提起」「訴訟上相殺の抗弁」「訴訟外相殺権の行使(及び訴訟外相殺の抗弁)」という行為選択肢を与えられた原告及び被告がどのような行為選択の系列を描くかを網羅的に分析し、そこに提訴と相殺の重複禁止という規制をかけることの当否について論じた。結論として、訴訟過程において別訴と相殺の抗弁の重複や、相殺の抗弁のかけ合いは、原則として許容されざるを得ないが、それによって生じ得る訴訟の最終状態(両当事者が互いに、相手方が提起した訴えにおいて訴訟上相殺の抗弁と訴訟外相殺の抗弁を提出し合う状態)は不当と思われるため、裁判所は提訴と相殺の抗弁の重複が認められた後、弁論併合を義務的に行うことにより、弁論分離状態を事後的に解消すべきである、との結論に達した。この研究成果は、越山和広・高田裕成・髙田昌宏・勅使川原和彦編『本間靖規先生古稀祝賀論文集 手続保障論と現代民事手続法』(信山社、2022年刊行予定)へ掲載予定である(脱稿済み)。 第2に、研究計画中主要な検討対象の一つである「手続保障の欠缺と再審」について、準備的な検討を終えた。すなわち、送達の瑕疵等に対する救済手段として、上訴の提起、上訴の追完、再審の提起、判決無効主張等があるが、これも訴訟過程において当事者が行う行為選択肢の問題として構成することとした。その際に、当事者にとって主要な問題は、上訴や再審等のどれが適切かよりも、「例外的な事象に対する救済を求める際、唯一の正しい手続を選択しなければならないか」という問題であると考え、令和4年度は、報告者のこれまでの基礎理論的研究の成果を応用して、上記問題を分析する予定を立てた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画では、①「重複訴訟と相殺の抗弁」②「将来給付判決と事情の変更」③「手続保障の欠缺と再審」という3つの主要な検討対象たる論点を特定した。 ①について、上記の通り、2021年度中に一定の研究の成果を得ることができ、論文の執筆が完了した。また、分析に当たっては、従来の解釈論が重複訴訟と相殺の抗弁が問題となるケースを2つ(いわゆる訴え先行型と抗弁先行型)に絞って検討していたのに対し、当事者が実際に直面し得る行為選択肢の領域を拡大・精査することで、検討ケースが多数(144場面)あることを指摘し、またその横断的な分析手法についても一定程度の枠組みを示すことができた。 ③について、手続過程内にある当事者にとっての行為規範的側面の検討が主たる課題となっていたところ、報告者がかつて行った基礎理論的分析(上田竹志「民事訴訟法における『行為規範と評価規範』の意義」民事研修633号(2010年)11-28頁、同「密猟主体と第三の波」西田英一=山本顯治(編)『振舞いとしての法』(法律文化社、2016年)43-63頁)の応用が可能であることを明らかにした。今後、複数の研究会等で構想発表の上、本研究については藤本利一・二木恒夫・西川佳代・安西明子・濵田雄久編『池田辰夫先生古稀祝賀論文集 次世代民事司法の理論と実務』(法律文化社、2022年刊行予定)で公表予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度においては、上述③「手続保障の欠缺と再審」問題について、2022年5月までに論文を執筆し、投稿する予定である。その際、当事者の行為規範的側面の検討のために、当事者の人間概念を操作することで、手続法にとっての例外処理問題(稀にしか起こらない事象のために、どのような救済手続を用意すべきか)について、理論の内在的限界や課題を析出することができるとの見通しを持っており、これを明確に理論化することを目指す。 また、上述②「将来給付判決と事情の変更」については、具体的事例としての諫早湾干拓事業関連訴訟で新たな動き(福岡高判令和4年3月25日)があり、そこでも将来給付判決が将来的な事情の変更により、強制執行が権利濫用となり得ることが示されている。この訴訟について、報告者は新聞に対するコメントのレベルであるが、複数のコメントをしており(長崎新聞令和4年3月24日朝刊、同3月26日朝刊、西日本新聞令和4年3月26日朝刊)、事件の具体的な経過についても情報収集を継続的に行っている。これらの素材に対し、報告者がこれまで研究した基礎理論的分析の応用を行うことで、事情変更に対する手続設計についての知見を得ることを目指す。この研究の成果は、2022年度中に九州大学法学部紀要「法政研究」等へ投稿することを予定する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症蔓延によって、旅費の執行が極めて困難になると共に、研究室及び在宅での研究環境を充実させ、特にオンラインでの情報収集や研究会参加のための環境整備が急遽必要となったため、物品費の額が増大した。 旅費執行の減額とそれに代わる物品費の増加は、2022年度も継続する予定であり、オンラインによる情報取得の環境整備のほか、書籍購入等の充実を予定している。
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Research Products
(1 results)