2021 Fiscal Year Research-status Report
Comprehensive Study on Information Management in Civil Litigation Records and Protection of Interests of Parties
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20K01414
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
星野 豊 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (70312791)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 民事訴訟記録 / 閲覧制限 / 公開情報との交錯 / 当事者の秘密 / 相手方における配慮義務 / 主観的悪意 / 不必要な情報拡散 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究年度第2年目に当たる本年度は、民事裁判記録中の当事者の情報の保護の実情に関する現状の検討に加えて、現行制度の有する潜在的な問題点の解明とその解決の方向性とに向けて、さらに多くの裁判所において裁判記録を閲覧した。その結果として、現段階において本研究の暫定的成果として挙げられることは、以下のとおりである。 第1に、前年度において実験的に提唱した、閲覧制限決定後における相手方当事者の配慮義務については、各当事者が自己の利益のために最大限度の自由と裁量を確保されるべき現行制度の大前提の下では、直ちに実現することは困難であると結論付けざるを得なかった。実際、閲覧制限決定を受けた情報の全部又は一部が、当事者の意図しない形で事実上第三者に対して明らかにされてしまう状況は少なからずあり、これを以て相手方当事者の「配慮義務違反」とすることは、訴訟の本来の目的である当事者間の紛争を解決することからは大きく外れてしまうおそれがあるためである。 第2に、上記とは別次元で、「公開情報」であっても多くの者が事実上知らない情報を、殊更興味関心を引く手法ないし態様で拡散させる者に対して、どのような対処、場合により制裁を加えることができるかが、本研究の問題関心からさらに先に進むための問題点として、徐々に明らかになってきた。この点は、従来の法律学が人の主観を「客観化」して把握してきたことの暗部に隠れていた問題であり、今後において生じうる具体的な事件解決のためにも、法律学としての理論的な体系を見直すためにも、長期をかけて検討しなければならないように思われる。 以上のとおり、本研究は、第2年度が経過した現時点において、本研究に係る研究上の観点及び問題点の明確化と、本研究の先に続くさらに大きな研究上の課題を明らかにすることに成功しており、次年度における本研究の終結に向けて、最大限の努力をしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度においては、初年度と比較して感染症防止対策等が社会において進展し、ごく僅かな制限を除いて、概ね順調に研究対象とする事件の記録を確認検討する機会が十分確保できたことから、本研究を計画年度内に相応の成果を以て完了させる見通しが確実となった。 一方で、裁判所における記録閲覧それ自体に対する社会全体からの関心は、申請者が研究を始めた頃と比べて格段に高まっており、それに応じて、裁判所における対応も、様々な方向性を見せつつ、全体として、社会的に著名である事件については、積極的に事件記録の照会に応じ、また、個別の特別保存要望に応じて保存期間の延長を行う方向にある。言い換えれば、既存の法学界では全くと言ってよい程行われてこず、単独で細々と継続してきた研究手法が、急に社会全体の関心事となったわけであり、その分、新たな問題点が浮上したり、制度として再検討を要する点も増加していることが窺える。 但し、かかる変化が生じている状況下にあっても、本研究に関して所定年度内に行わなければならないことにほとんど変化はなく、当年度においては、閲覧制限決定後における相手方当事者に関して、情報の秘匿に関する協力体制への協力を求めることができるかについて、実験的な考察を試み、学会発表を行った。もっとも、現行法上、訴訟の相手方当事者に対して何らかの義務や責任を課す法律構成は、裁判所が閲覧制限を認めたという事実のみでは貫徹することが難しく、必ずしも明快な結論を出すまでには到っていない。 結局のところ、本研究の課題の先には、情報を不必要に拡散させる当事者ないし関係者の「主観的悪意」を理論化することが必要である可能性が高く、本研究においてどこまでの点を明らかにすることができるか、次年度においてもできる限り考察を深めるよう努力したい。
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Strategy for Future Research Activity |
現状のところ、本研究は、感染症防止対策が社会で定着したことも与り、研究調査活動が支障なく進行できているため、当初の研究計画に沿った形で、研究の最終年度を迎えることができている状況にある。 従って、基本的には、当初の研究計画どおり、これまでの調査検討に基づいて得られた研究上の観点を、これまで公表してきた成果を踏まえ、最終的に論文の形で仕上げ公表することが、最終年度における研究の遂行目標となる。もっとも、本年度までの研究の結果、本研究に続く新たな研究上の問題点が明らかになってきている以上、できる限り新たな問題点についても解明を進め、今後の中長期にわたる研究成果へとつなげる努力をしなければならない。 他方で、感染症防止対策の延長線上で派生してきた各種の実務的対応の中には、本研究での関心事である訴訟記録における情報の取扱の基本的な対応に直結するものも少なからずあり、可能な限りかかる新たな実験的対応に関する分析検討も、併せて行っていくこととしたい。実例としては、双方当事者がそれぞれ秘匿したい情報を有している事件において、準備書面等の原本とは別に、予め当事者間で合意した記号符丁等を記した書面を暫定的な記録として保存し、原本については法廷において相互に確認する(事実上第三者が内容を知ることは困難である)という手法が採用された事件があり、近い将来分析検討結果を論文ないし学会発表により公開する予定である。 他方、現在裁判所において進めているとされる電子書面等への移行が、当事者の秘密保護の実効性にどのような影響を及ぼしうるか、閲覧制限申立あるいは閲覧制限決定に係る実務がどのような変化がもたられされるかについても、制度が実現する前の段階で理論的な検討をすることには一定の意義があると考えられるため、この点についても次年度は本格的に研究対象として取り込んでいくこととしたい。
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