2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K01423
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Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
宗田 貴行 獨協大学, 法学部, 教授 (60368595)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 消費者団体訴訟 / 集団的被害回復 / 返金命令 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、EUにおいて多数の消費者に共通した財産的被害を生じさせる消費者の利益を侵害する行為に関し、被害者個人からの提訴方法には多くの限界があることから導入されている民事法及び行政法上の集団的消費者被害回復制度の内容とその運用を研究し、その制度における私法と公法の役割を明らかにすることを目的としたものである。 このため、第一に、民事法上の制度について、これまでの研究を纏めた『消費者団体訴訟の理論』信山社2021年を公刊した。同書は、消費者庁の消費者裁判手続特例法改正の研究会資料にも引用される他、同庁からそれに関しヒアリングを受けた。 第二に、行政法上の制度について、本研究は、行政処分による集団的消費者被害回復について、①競争法(日本の独禁法に相当)上の場合と、②消費者法上の場合を検討する。①については、ドイツ競争制限禁止法上の利益返還命令権限(同法32条2a項)を検討する。②についてはEU消費者保護協力規則(2017年)等を検討する。これらを踏まえて、我が国の独禁法及び消費者法分野における行政処分による集団的消費者被害回復手法について私的自治の原則との関係を押さえつつ検討を行う。 第三に、本研究は、これらの集団的消費者被害回復方法が、デジタルプラットフォーマーによる独禁法違反、消費者諸法違反の事例において、どのような役割を担い得るのかについて明らかにすることを目的とする。これに関しては、多数消費者被害の事例にも応用可能であるため、独禁法上の確約手続について、研究会報告を行った。その成果を公表する予定である。 第四に、上記第二及び第三の研究を踏まえ、次年度(2022年度)においては、行政処分による消費者被害回復手法について、約400頁の単著を出版するために目下準備中である。2023年1月中には公表する予定である。これには、獨協大学の研究図書出版助成金を得ることができている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
たしかに、今年度は、本研究課題に関する公表物はない。 しかし、第一に、2021年1月には、これまでの民事法上の消費者被害回復制度についての研究成果の集大成といえる600頁を超える単著『消費者団体訴訟の理論』信山社2021年を公表することができた。 第二に、2021年度においては、デジタル・プラットフォーム企業の独禁法違反行為や消費者諸法違反の事例での多数消費者被害回復に資する可能性を有する確約手続について、今回は、すでに導入され活用が見られる独禁法上の確約手続のデジタル・プラットフォーム企業関連の事例研究を研究会で報告できた。この研究会での議論を踏まえた研究はすでにひとつの原稿としてまとめ上げており、次年度公表する予定である。 第三に、ヨーロッパにおいては、デジタル・プラットフォーム企業の仲介者責任を含めたオンラインプラットフォーム市場における消費者被害防止・回復のための諸法の制定作業が急速に進められている。具体的には、デジタル・サービス法とデジタル・マーケット法等の制定作業である。これらの検討を踏まえ、我が国における独禁法や消費者諸法上の行政処分による消費者被害回復について検討した約400頁に及ぶ単著の研究書を2023年1月中には、公表する予定である。 第四に、第三で指摘した単著の出版にあたっては、獨協大学の研究図書出版助成を受けることとなった。 これらに鑑みると、たしかに、今年度の公表成果物はないものの、本研究課題は、当初の計画以上の進展を見せることができているということができるように思われるところである。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、次年度以降に公表するための研究成果がすでに多く見られているところである。 このようなことから、本研究課題を今後どのように推進すべきであるのかについては、以下のように考えられるところである。 すなわち、第一に、上述したところの確約手続に関する事例研究、具体的には、アマゾンジャパン事件等についてであるが、この検討結果を可及的速やかに大学紀要等の媒体において、公表することが挙げられる。 第二に、上記の通り、すでにその大半が書き上げられている行政処分による消費者被害回復について論じた『行政処分による被害回復の法理――EUデジタルプラットフォーム規制の考察と我が国の課題――』を2023年1月中に出版する予定であるので、そのための執筆作業を加速することである。2020年12月にEU委員会から提案された重要なデジタルサービス法案・デジタル市場法案についてEU2022年4月25日時点で欧州議会及び欧州理事会で制定に向け基本的な合意に至っており、制定が目前に迫っている。制定された両法案についての検討を同書の検討に反映することが挙げられる。 第三に、これらと並行して行わなければならないのが、消費者の集団的被害回復のための民事法上の制度の検討の継続である。これについては、上記の通り、2021年1月に単著『消費者団体訴訟の理論』信山社2021年を公表したが、その後、消費者庁で消費者裁判手続特例法の改正が検討され、2022年度通常国会において、同法の改正案が2022年4月25日現在、まさに審議されているところである。同法に対し上記の自著で述べた批判点の改善も含む同法案の審議及び制定法の内容を踏まえて、その改正の評価や今後の課題についての検討を行う必要がある。このため、これについての論文をまとめ公表することが本研究課題の具体的な推進方策の重要な一つとして挙げられると考えられるところである。
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Causes of Carryover |
本年度は、研究図書の購入とPCの購入が主な支出となり、当初予定していた海外出張は行うことができなかった。 次年度使用額が発生した理由は、新型コロナウィルスの感染状況の影響で、当初予定していたドイツなどヨーロッパ諸国への海外出張が、困難ないし事実上不可能となったことにあるということができる。 今後の使用計画は、以下のようになる。第一に、新型コロナウィルスの感染状況の推移を見つつ、海外出張の可能性を探ることにする。第二に、本研究課題のための海外文献の収集にも、従来に比してより一層費やすことを予定している。
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Research Products
(1 results)