2020 Fiscal Year Research-status Report
言語マイノリティの医療保障のための患者の権利に関する比較法的研究
Project/Area Number |
20K01424
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Research Institution | Showa Women's University |
Principal Investigator |
森本 直子 昭和女子大学, 総合教育センター, 准教授 (40350425)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | インフォームドコンセント / 患者の権利 / 言語マイノリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
日本語での意思疎通に不自由する言語マイノリティが医療を受ける際に直面する困難を契機として、患者の権利のあり方を特に言語コミュニケーションの観点から再考・再構築しようとする本研究の目的に照らし、2020年度は従来の患者の権利論における意思疎通困難な患者の取り扱いを米国の議論を中心に検証した。こうした患者の治療上の決定を、家族による代諾や、本人の事前の意思表示に頼る従来の手法は、医学的な要因で意思疎通が困難になった患者を想定したものであり、言葉の壁を原因とする言語マイノリティ患者には適さない。そこで、移民大国アメリカにおける患者の権利論から言語マイノリティ患者の視点が抜け落ちた原因を解明すべく、インフォームド・コンセント(IC)法理に注目した。 IC法理が医師側の「説明」義務をめぐる議論に終始し、患者側の「承諾」の基盤となる「理解」には十分注目しなかったことが、1960年代以降の文献から明らかになった。もっとも、移民患者のICに「理解」の点で困難が伴うことは、初期の文献上でもわずかながら言及されており、本研究と共通する問題意識の萌芽は確認された。患者の「理解」は、ICの構成要素とされたものの、医師側の「患者が理解できるような方法での説明」義務の中に包摂されるものとして取り扱われてきた。しかし、「理解」はIC法理をめぐる患者側の重要な要素であるため、医師側の義務とは別個に検討されるべきこと、また、治療を「承諾」した患者はその前提となる説明を「理解」したはずである、との「みなし」が強者の論理であることを指摘したことにより、今後の課題が明確になったように思われる。 コロナ禍の影響により、2020年度の現地調査は国内外共に見送りとなった。これは本研究が医療機関を調査対象とするため、やむを得ない。他方で、上記の研究は文献調査で実施できたため、本研究は全体として一定の進捗をみた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査は引き続き差し控えざるを得ない状況であるが、文献研究によって研究は進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度も引き続き現地調査は困難な状況が続くことが予想される。したがって、判例研究を中心に、言語マイノリティ患者の権利をめぐる状況を調査する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、海外調査・国内調査(医療機関対象)共に実施できなかったため。国内外の感染状況と医療機関の外部訪問制限、海外渡航制限やワクチン接種の状況が改善すれば、当初予定していた現地調査を実施し、旅費を執行したい。ただ、現時点では見通しが立たないため、当面は海外法律文献を収録したデータベースによる文献調査で代替できる部分を遂行し、データベース使用料を支出することを計画している。
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