2023 Fiscal Year Research-status Report
知的財産権の侵害訴訟と権利濫用法理――競争政策的観点を考慮に入れて
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20K01437
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
泉 克幸 関西大学, 総合情報学部, 教授 (00232356)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 知的財産権 / 独占禁止法 / 権利濫用 / 特許権 |
Outline of Annual Research Achievements |
1 概要…知的財産権には「市場独占」という弊害を必然的に伴う。市場独占という弊害の除去には競争政策的観点の導入が有効かつ重要であると理解されている。本研究は、市場独占の弊害の対応策として権利濫用法理に着目し、その要件や基準を、競争政策の観点から明確に提示することを目的に実施するものであ る。本年度も当初の研究計画調書に従い、知的財産権侵害訴訟のうち、権利濫用と競争政策に関する事例、および知的財産に関する独禁法違反の事例(公取委の相談事例なども含む)や海外競争当局の動きについて資料の収集を行うと共に、その整理と分析を継続した。 2 具体的成果…今年度、研究成果として「特許権者によるトナーカートリッジのデータ書換制限と権利濫用」を、判例評論779号(判例時報2576号)19頁において公表した。その内容・意義は次のとおりである。 本稿はトナーカートリッジデータ書換制限事件(知財高判令和4年3月29日・令和2年(ネ)第10057号)の判例評釈である。評釈の対象とした本件は、プリンタおよび関連商品等の製造販売等を行うX(原告・控訴人)が、特定のプリンタ用のトナーカートリッジに装着されるX電子部品についてデータの書換制限(本件書換制限措置)を行ったため、リサイクル業者であるY(被告・被控訴人)らが、X電子部品をY電子部品に取り替えた上でY製品を製造販売等したところ、XがYらの行為はX電子部品に係る特許権の侵害であると主張し、差止めおよび損害賠償を請求した事案である。原判決は請求を棄却したが、本判決はこれを逆転させ、Ⅹの請求を認容した。評釈においては本判決の意義が特許法と独禁法の関係を明らかにした点にあることを述べたほか、判決に現れた消尽の成否、権利濫用について(本判決の判断枠組みと独禁法の関係、独禁法の成否について)、本判決の評価について詳細に検討し、論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、本年度は、本研究の最終目標である「競争政策の観点からみた権利濫用の要件や基準を可能な限り具体的に提示する」というテーマで、具体的成果として論文を作成・公表する、ことを予定していた。本年度はトナーカートリッジ書換制限事件(知財高判令和4年3月29日)の判例評釈を公表し、特許権侵害事件における独禁法違反の主張と権利濫用成立に関して、いくつかの重要論点を明らかにすることができた。 他方で、当初計画していた①諸外国の事例や議論(イーベイ事件最高裁判決やミスユース法理など)の調査・分析すること、②「知的財産ガイドライン」(公取委、2016年最終改正)に示された考え方について、権利濫用法理との関係で再検討する、といった課題については未着手に終わった。 以上が、本年度、本研究が「やや遅れている」となった理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の初年度および2年度は新型コロナ流行のため、海外出張、国内出張を中心に当初の研究計画に大きな影響が生じた。当初計画の最終年度に当たる令和5年度には、トナーカートリッジデータ制限事件の判例評釈において、行き過ぎた特許権の行使を独禁法の観点から規律することの可能性や解釈におけるポイントなどを明らにした成果を公表することができた。しかしながら、当初の計画案で予定していたイーベイ事件最高裁判決やミスユース法理など、米国の事例や議論を調査分析すること、および、「知的財産ガイドライン」(公取委、2016年最終改正)に示された考え方について、権利濫用法理との関係で再検討することなどは手を付けることができなかった。 そこで、令和5年度を最終年度としていた研究期間を1年間延長して令和6年度も研究を継続することとし、前記の課題に取り組みたいと考えている。
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Causes of Carryover |
今年度は100万円程度の次年度使用額が生じた。これは、世界的な新型コロナのパンデミックのため、本研究の1年目・2年目(令和2年度・3年度)には海外出張(および一部の国内出張)が不可能な状態となったことに起因している。また、新型コロナの流行により授業の準備・実施(資料の作成、リモート授業への対応など)にかなりの時間を要すこととなり、本研究のスムーズな推進、堅実な研究費の執行に大きく支障を来すこととなった。 そこで、研究期間を1年延長することとし、4年間で着手していない課題に取り組み、それに必要となる予算(出張旅費、PC等の情報機器の導入など)を計画的かつ堅実に使用する計画である。
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