2020 Fiscal Year Research-status Report
日本における英国政治システム理解の変遷:デモクラシーにおける主権論との関連
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20K01443
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
眞壁 仁 北海道大学, 法学研究科, 教授 (30311898)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 立憲君主政 / 国会主権 / 代議制デモクラシー / 英国国家構造 / ヴァーノン・ボグダナー / J.S.ミル |
Outline of Annual Research Achievements |
デモクラシーにおける対内的な主権論との関連において、日本における英国政治システムの理解の変遷を明らかにすることが、本研究の目的である。研究の第一年目は、①近年の立憲君主政論と主権論研究の把握につとめるとともに、②英国政治学の古典的著作のうち、とくにJ.S.ミルの『代議制統治論』に焦点をあてて、彼の代議政体論の日本での受容とその理解の変遷を検討した。 ①英国の政治システムを、王権と融合した「国会主権」と「人民主権」をめぐる主権論の相のもとに捉え直すにあたり、英国憲政史のヴァーノン・ボグダナーの諸研究を一つの参照点に選定した。本研究の理論的枠組みにとっては、EU離脱の国民投票をめぐって顕在化した二つの主権論の対立に加えて、これとの関連で彼の「立憲君主政はデモクラシーを蝕むのではなく、民主政的諸制度を支えるのに役立っている」との見解の妥当性検討が重要であった。後続世代の諸研究を引き続き追う必要はあるが、ボグダナーを参照軸に据えたことで、19世紀後半から現代に至る射程の長い枠組みを参照することが可能になったと考える。 他方、②『代議制統治論』受容史においては、J.S.ミルが政治社会の構成員に求める「知性」以外の資質をどのように捉えたか、それを近現代日本の翻訳者たちがいかに理解し、翻訳に反映させているかを明らかにしようとした。J.S.ミルの代議制デモクラシーを支える条件には、社会の維持・進歩のために国民全般に求められる「道徳」(徳性)と、政治的代表に求められる「知性」以外の資質が認められる。原文と各種日本語訳の比較対照作業で明らかになったのは、この点において日本の翻訳者の理解は一様ではなく、顕著な相違が見られることである。各時代の翻訳の背景、翻訳者の他著作との関係、翻訳本の影響を検討するという課題を残すが、代議制デモクラシーを「知性」と「徳性」の関係から問う視点を浮き彫りにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍による授業形態の変更とその準備に多くの時間を割くことになり、当初予定していたほど研究専念時間を確保することが難しかった。そのため、すでに英国憲政史研究の泰斗であるボグダナーに続く世代の理論的研究の調査とその参照が不十分になり、J.S.ミルとの関係で比較するつもりであったH.スペンサーの代議政体論の検討にも着手できなかった。また本研究は、研究代表者にとって新たな研究主題への着手となるため、これに関連する業績を全く生むことができなかった。 しかし、ボグダナー著作やJ.S.ミル『代議制統治論』の各種翻訳検討から、参照すべき理論枠組みと課題、古典的な代議制デモクラシーへの視点を得ることができたことから、進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、同時代のバジョットやダイシーをはじめとする英国国家構造をめぐる古典的な著作の日本への受容を検討して、デモクラシーをめぐるこの二つの主権原理が、明治期以降の日本の識者たちにどのように理解されたのかを時代ごとに明らかにし、長期的視野のもとで、英国の代議制デモクラシーと立憲君主政の政治システムの日本での受容過程の解明に取り組んでいく。 具体的には、第一に、前年度に取り組むことのできなかった、H.スペンサーの代議政体論の日本への受容を、バジョット、J.S.ミルの理解との比較のなかで捉える。第二に、代議制デモクラシーをめぐっては、19世紀の彼らの主張を英国内の選挙制度改革の変遷の文脈のなかで理解する。第三に、J.S.ミルの政治思想の日本への受容状況を確認するために、晩年の重要著作『自由論』・『功利主義論』の近代日本での各種翻訳を比較検討する。第四に、英国内で広く共有されることになる「国会主権」の原則と「法の支配」を述べたダイシーの『英国憲法論』と『19世紀における英国の法律と輿論との関係』の日本での受容と理解の検討に着手する。その際には、時代的背景との関連で、英国におけるダイシー憲法学説の政治性についても配慮したい。
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