2023 Fiscal Year Research-status Report
日本における英国政治システム理解の変遷:デモクラシーにおける主権論との関連
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20K01443
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
眞壁 仁 北海道大学, 法学研究科, 教授 (30311898)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 国会主権 / 男女同権 / 功利主義論 / J.S.ミル / H.スペンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
英国において、自国の政治システムを「国会主権」の国家構造と捉える自己理解が生まれる19世紀後半から20世紀初頭までの期間は、同国内においてジェンダーの観点からする選挙制度改革が提起された時期とも重なっている。王権におけるジェンダー論と併せて、同時期の「国会主権」と「人民主権」の検討には、ジェンダーの視点を入れる必要があるのではないか。本研究第四年目は、この理解にたって、英国の国家構造の要となる選挙制度をめぐり、英国の古典的著作の日本での受容を分析して主題検討に繋げようとした。 具体的には、20世紀前半の第五次選挙法改革に至る選挙制度改革の流れをおさえたうえで、これまでの関心を引き継ぎ、明治期から繰り返し翻訳出版され近代日本の女性参政権思想に大きな影響をもたらした、H.スペンサー『社会平権論』とJ.S.ミル『女性の隷属』の受容に焦点をしぼった。前者については尾崎行雄、松島剛、後者には明治期の深間内基、河田嗣郞、大正期の野上信幸、昭和初期の平塚らいてう、戦後の山川菊栄、山本修二、大内兵衛・大内節子、水田珠枝の翻訳と紹介を検討した。各種翻訳における功利主義や道徳感情に関連する重要語句、仮定法の文法理解を批判的に検討しただけでなく、各時代ごとの受容の拡がりと認識の変化、現代のジェンダー論を含む後代の問題関心からなされる批評の妥当性をみきわめようとした。 尤もこれらの著作翻訳の検討だけで、英国政治システムの日本国内での同時代的な受容を理解するには限界がある。ジェンダー論に言及なく国家構造を論じる理論的著作の方が多く、また女性参政権を要求する圧力団体の政治運動が制度改革に大きな影響を与えたことも無視できない。しかし、思想史的なアプローチとして、試みる価値のある検討ができたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍は落ち着いたものの、この間に授業形態が大幅に変化したことをうけて、その準備に多くの時間を費やし、学期中には文献調査のための国内出張を行えなかった。そのため、今年度も近代日本での英国政治学の受容に関する一次史料の調査は見送り、刊行物を中心に古典的著作の内在的理解と解釈史の検討を重点的に行わざるを得なかった。これまでのバジョット、J.S.ミル、H.スペンサーの著作とその受容を検討してきたが、本年度内には、英国内で広く共有されることになる「国会主権」の原則を論じたダイシーの憲法学説とその政治性の分析、さらにそれらの日本への受容と理解にまで検討が及ばず、研究主題に関する業績を生むことができなかった。しかし、当初予定していなかったジェンダー論の視点を取り入れて英国の国家構造の検討を試みたことから、進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度として、第一に、前年度からの課題であり着手が遅れていたA.V.ダイシー著作の日本での受容に取り組むこと、第二に、近年新たな翻訳が出版されたバジョット研究の成果を消化して本研究に反映すること、第三に、英国内の国家構造理解を19世紀以前に遡り、それとの関係で19世紀半ば以降の理解を位置づけることを課題としたい。思想史研究としては、長期的な視野のもとで本研究の課題と意義をまとめ、成果を公表していくことが求められていると考える。これまでの個別の検討を活かしつつ、バジョットとダイシーをはじめとする19世紀後半の古典的な英国国家構造の著作の日本への受容を再検討して、日本における英国の政治システム理解の変遷を探るという当初の課題に応えたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍を経て授業形態が大幅に変更され、当該年度は対面とオンライン同時配信のハイブリッド形式の授業の準備に多くの時間を割くことになった。学期中は当初予定していたほど研究専念時間を確保することが難しく、授業期間以外でもその他の業務が重なり、国内外での史料調査や研究会参加を見送らざるをえなかった。 翌年度分として請求した助成金は、コロナ禍に遂行できなかった史料調査や研究会参加、さらに文献資料の補充と資料整理にかかる作業補助にあてることを予定している。
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