2020 Fiscal Year Research-status Report
近代日本における自由主義的改革の系譜:「貿易立国」から「埋め込まれた自由主義」へ
Project/Area Number |
20K01447
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
瀧口 剛 大阪大学, 法学研究科, 教授 (10257959)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久野 洋 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 講師 (10795181)
矢嶋 光 名城大学, 法学部, 准教授 (30738571)
醍醐 龍馬 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (70802841)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 貿易立国 / 犬養毅 / 大阪財界 / 芦田均 / 鈴木九萬 / 千島樺太交換条約 / 黒田清隆 / 榎本武揚 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である20年度は、コロナ禍のもとではあったが、研究参加者はデジタル資料や複写サービスを利用して資料収集とその分析を行い、オンラインでの研究会により意見交換に努めた(4回)。 研究代表者の瀧口は、オンラインでの研究会を主催しつつ、大阪財界と民政党内各期の関係、特に哲関税反対運動の資料を整理し、論文を執筆した。 久野は、明治・大正期の犬養毅の論説記事を読み込み、また、岡山県内の犬養木堂記念館、岡山県立記録資料館、野﨑家塩業歴史館において、犬養と政治的つながりのある政治家の史料を閲覧・収集した。これらを通して、犬養が、日露戦争以後、憲政本党内の紛争や中国情勢の変化などに対処しながら、支那保全論にもとづく貿易立国構想を形成・更新していく過程について、新たな理解を得ることができた。 矢嶋は戦前からの自由主義派である芦田均と芦田側近の外交官であった鈴木九萬の動向について、戦後の活動を中心に明らかにした。とくに鈴木については、占領期に記された彼の日記の解読を進めた結果、第8軍経由、いわゆる「アイケルバーガー・ルート」が冷戦下において米国との関係を強化しようする日本側の動きのなかで重要な役割を担っていたことが明らかになった。 醍醐は、千島樺太交換条約の関連する次の研究成果をあげた。1 日本郵船株式会社小樽支店で開かれた樺太境界画定委員会議の経緯とその性格を考察した。2 開拓次官黒田清隆の樺太放棄運動を、樺太千島交換条約に至る政治過程の中に位置づけた。3 幕末・明治期におけるロシア艦隊の長崎越冬慣習を、樺太千島交換条約との関係から考察した。4 小樽港の将来性に明治初年から着目していた榎本武揚の対露貿易構想を北海道開拓構想全体の中で検討した。5 樺太千島交換条約が日露間の経済関係にもたらした影響を、ロシア側の先行研究を調査することにより把握した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の関連資料の収集、分析を中心とする計画をほぼ予定通り遂行できたと考える理由は以下の通りである。 資料の収集、分析の点では、コロナ禍のもとでも、オンラインや資料請求により、犬養毅、鈴木九萬、榎本武揚関連の資料を中心に収集、分析を行った。 研究会活動としては、瀧口「製鉄合同・関税の政治史(1930~1934) 自由通商運動との関係において」、醍醐「黒田清隆と樺太放棄運動-対露宥和路線の確立」、矢嶋「芦田均と鳩山一郎―霞が関外交と政党政治」、久野「書評 松本洋幸『近代水道の政治史』(吉田書店、2020年)」などの報告において意見交換を行った。 以上のことからほぼ順調に研究を推進することができたということができる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の参加者それぞれが資料の収集、分析を続け、研究会での意見交換により全体の研究をとりまとめてゆく。 瀧口は 研究会を主催し、大阪財界を中心とした自由通商運動が一九三〇年代日本の政治経済に与えた影響を分析する。久野は、国立国会図書館憲政資料室や早稲田大学図書館などで史料収集を行いながら、明治・大正期の政治的再編のなかで犬養が貿易立国論から産業立国論へ政策を更新させていく過程を探究し、論文にまとめる作業を進める。矢嶋は「鈴木九萬日記」の解読を進め、戦後における自由主義派の外交政策について、検討していく。醍醐は、千島樺太交換条約と北海道開発問題を中心に、日露の資料分析を進める。 大阪大学での政治史研究会により、以上の個別分析を自由主義的改革の視点から総合化してゆく予定である。
|
Causes of Carryover |
コロナ感染拡大のために、国立国会図書館などへの出張調査を延期したために翌年度に繰り越しが生じた。次年度以降に調査をする予定である。
|
Research Products
(10 results)