2022 Fiscal Year Research-status Report
中国の影響力メカニズムの比較政治学的研究―「恵台政策」を中心に
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20K01460
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
松本 充豊 京都女子大学, 現代社会学部, 教授 (00335415)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 中国の影響力 / 恵台政策 / エコノミック・ステイトクラフト / 台湾の若者 / クライアンテリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、中国の習近平政権による「恵台政策」を取り上げ、台湾に対する利益誘導型の影響力行使の効果を分析し、中国による経済的手段を用いた影響力行使の可能性と限界を明らかにすることにある。本年度の研究実施計画では、台湾の高卒者に対する中国の大学での就学への優遇措置に関する調査・分析を予定していた。しかし、本年度もまた昨年度と同様に新型コロナウイルス感染拡大の影響により、現地調査は実施できず、インターネットや国立国会図書館関西館を利用した文献調査のみとなった。当初計画の大幅な変更を迫られたため、本年度は台湾の若者への優遇措置として、大卒者の中国での就業・起業支援策の考察に重点を置き、江沢民政権と胡錦濤政権の経験と比較しながら、習政権の実践の特徴について分析した。 研究成果の具体的内容については、台湾の若者の中国での就業・起業支援策を「利益供与型」のエコノミック・ステイトクラフトと捉えて、それを通じた中国による影響力行使のメカニズムをクライアンテリズムの視点から分析した。習政権の実践では台湾の若者を中国に誘致して利益誘導が図られた。利益誘導の場が台湾から中国に移ったことから、影響力行使のメカニズムは、胡政権期の中台間にまたがる「両岸クライアンテリズム」から、江政権期に類似した中国国内でのクライアンテリズムに回帰した。台湾の若者への就業・起業支援策の事例では、クライアンテリズムを有効に機能させる条件を欠いており、中国が意図した利益分配も、それを政治的な効果につなげる監視も十分実現できていなかったことが明らかにされた。 研究成果の意義として、第1に、これまで「懲罰付与型」の事例分析に注目が集まり勝ちだったエコノミック・ステイトクラフト研究に新たな知見を提供できたことがあげられる。第2に、江政権と胡政権の経験との比較から、習政権の実践の特徴を描き出すことができたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
昨年度と同様に、新型コロナウイルスの感染拡大が収束せず、海外(現地)への渡航と国内での移動や研究施設の利用ができない、あるいは大幅に制約される事態が続いた。そのため、台湾での現地調査は困難なままとなり、現地での文献調査やインタビュー調査が実施できなかった。国内での調査活動も大幅に制約され、本年度の研究活動が実施計画どおりに遂行できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度には国内での文献調査を行うとともに、休暇を利用した台湾での現地調査を予定しており、またその実現を強く期待している。ただし、新型コロナウイルスの感染状況の先行きが必ずしも見通せる状況にない。台湾への渡航が制限されれば、現地での文献調査やインタビュー調査は困難となり、国内での調査活動もいつまた制約されるともかぎらない。2022年度と同様に研究実施計画どおりの遂行が難しくなる可能性は否定できない。そこで、文献の購入やインターネットを活用した文献調査を中心とし、調査・分析には可能な部分から柔軟に取り組んでいく所存である。あるいは、状況の応じて当初の研究計画の変更にも柔軟に対応していきたい。現地への渡航が可能となり、もしインタビュー調査を実施できる条件が整えば、その段階で関係者への意向確認を進めたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染状況が収束せず、海外への渡航が困難な状況のまま予定した現地調査は実施できず、国内での資料調査もほとんど進められず、旅費を中心に計画どおりに使用することができなかった。本研究計画への取り組みが、学内業務や他の研究活動との関係で時間的に圧迫されてしまったことにより、助成金の使用計画に影響した部分もあった。次年度は国内外での調査活動の実施を計画(期待)しており、それが実現できれば助成金の使用を適正化できる可能性が生まれてくると考えている。
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Research Products
(3 results)