2020 Fiscal Year Research-status Report
過小代表利益を担う行政組織の成長の条件:環境官僚の戦略的行動と行政資源の比較分析
Project/Area Number |
20K01462
|
Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
久保 はるか 甲南大学, 共通教育センター, 教授 (50403217)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 環境行政 / 行政組織 / 調整・協議 / 気候変動 / 環境影響評価 / カリフォルニア州 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、「環境行政組織の対外的なパワーの源泉として組織に対する信頼性(Reputation)をいかにして獲得しているか、比較研究によって明らかにすること」(科研費申請書より)を目的の一つとしていたが、この点について、カリフォルニア州の気候変動政策を担う行政組織の分析を行い、共編著本において発表した(辻雄一郎, 牛嶋仁, 黒川哲志, 久保はるか編著『アメリカ気候変動法と政策 : カリフォルニア州を中心に』(勁草書房、2021年)(単著:第3章「カリフォルニア州における気候変動防止政策の制度的条件――合議制の行政組織の役割に着目して」)。カリフォルニア州の気候変動政策は、高い専門性と独立性を有する合議制の行政組織(大気保全を担当するCARB, エネルギーを担当するCPUCとCEC)に広範な権限委譲がなされていることが特徴である。これら気候変動防止政策を担う合議制の行政機関は,政策遺産によって獲得した権限と専門性を源に社会的に高い信頼性を確保しており,それによって,科学的根拠に基づく政策形成と政策の安定的な実施を実現できるという好循環を生み出しているといえる。 続いて、2021年6月19日に開催される環境法政策学会・企画分科会「セッションテーマ:グローバルな視点からの日本の環境影響評価制度の再検討」の報告準備を進めた。報告のタイトルは「評価制度としての環境影響評価の可能性と限界」であり、環境影響評価制度の運用面に着目し、行政の意思決定プロセスにおける環境影響評価制度の作用について考察することとした。特に、環境影響評価を、環境省が権限を有する事業所管省の手続きに環境配慮の観点から関与する仕組みであると捉えて、日本の省間調整システムと環境影響評価手続きとの相互作用について、環境大臣意見を題材に分析を進めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
書籍の刊行スケジュールに合わせて、当初計画では2年目に実施する予定であったカリフォルニア州の気候変動政策を事例とする比較研究をまず実施し、共編著書において発表した。カリフォルニア州の気候変動政策を担当する環境行政組織、とりわけ主管庁であるCARBについて、広範な権限委譲を是とするほどの社会的な信頼(reputation)を得ている要因を明らかにしようとした。それは、連邦大気清浄法で与えられたカリフォルニア効果と呼ばれる権限と、合議制の組織ゆえに持ちうる行政資源であり、カリフォルニア州の気候変動政策に関する研究としてだけでなく、上記【研究実績の概要】で述べたように、環境行政組織の対外的なパワーの源泉となる組織に対する信頼性(Reputation)の獲得に関する比較研究に発展させる素地をつくることができたといえる。 環境影響評価に関しては、本研究計画において明らかにしようとしている他の省庁との調整・協議に基づく環境行政の一つの事例として位置付け、分析を行った。そのために、まず、評価制度一般の機能に関して既存研究の文献調査を行った。そのうえで、環境影響評価手続きを、環境省が権限を有する事業所管省の手続きに環境配慮の観点から関与する仕組み、すなわち省間調整のプロセスとしてみたうえで、環境影響評価手続きの運用実態調査を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、まず、6月19日に開催予定の環境法政策学会において、「評価制度としての環境影響評価の可能性と限界」について報告する準備を行う。また、報告原稿については、企画分科会として公表の準備を行う予定である。 そして、昨年度に実施できなかった、他省庁との調整・協議プロセスにおける環境行政組織の官僚の戦略的行動に関して、具体的事例(成功事例・失敗事例)の収集・分析を行う。事務次官経験者である研究協力者の協力を得て、劣位に置かれる環境配慮や将来世代の利益などの価値を政策立案で反映させるためにどのような戦略・工夫を講じたかまた、統治構造・技術・社会といった外部環境の変化(具体的には、中央省庁再編、技術の発展、地球環境問題をはじめとする環境問題の状況変化)を、組織戦略としてどのように利用したのかを明らかにする予定である。
|
Causes of Carryover |
主として、コロナ禍において、申請時に予定していた調査旅費を支出することができなかったため、次年度使用額が生じた。
|
Research Products
(1 results)