2020 Fiscal Year Research-status Report
Effects of Prime Minister's Leadership on Formuation of Foreign and Security policy after Political Reform
Project/Area Number |
20K01471
|
Research Institution | National Graduate Institute for Policy Studies |
Principal Investigator |
竹中 治堅 政策研究大学院大学, 政策研究科, 教授 (70313484)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 首相 / 安全保障政策 / 外交政策 / 内閣官房 / 参議院 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主な目的は次の三つである。(1)1990年代後半以降の時期において、外交・安全保障政策の分野で、首相の指導力が制度的に強化されたことを示すこと。(2)首相の指導力が制度的に強化されたことが外交・安全保障政策の内容及び決定過程に及ぼした影響を通時的分析や比例事例分析を通じて解明すること。(3)この時期に外交・安全保障政策の立案過程で、参議院が首相の指導力に及ぼした制約を分析すること。 2020年度は1990年代後半以降、首相の指導力が制度的に拡大していることを確認した。また、2000年代以降、首相や官房長官が関係する外交・安全保障関係の会議および内閣官房におかれる外交・安全保障関係の部局に関するデータベースの作成に着手した。また日本がTPP交渉で国際的指導力を発揮し、「自由で開かれたインド太平洋」構想が提唱した背景には首相の指導力の強化があることを示した。また①この構想の策定経緯ならびに構想の下で展開される対外経済政策や安全保障政策の分析及び②内閣官房が事務局を務める会議の構想の立案への関与のあり方について分析を開始した。 一方で、1980年代終盤以降、国連PKO協力法、テロ対策特別措置法など主な安全保障関係の法案の制定過程において参議院が果たした役割を分析し、論文としてまとめ、英文査読誌に投稿した。この論文では首相は参議院のために安全保障政策を立案・実施する際に、しばしば内容を見直すことを迫られたほか、政策が遅延、中断することがあったことを示した。その後、査読者からコメントが提出され、修正を求められたため、コメントに応じて修正し、再投稿した。査読者のコメントを踏まえて、1980年代後半以降、日本の安全保障政策の変遷過程全般の中で参議院の果たしてきた役割について改めて考察し、参議院は日本の安全保障政策の変遷を漸進的なものにすることに寄与したことを新たに指摘した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね順調としたのは、本研究の主な三つ目的の達成に向けて研究を進めることができたからである。(1)まず、本研究の第一目的である1990年代後半以降の時期において、外交・安全保障政策の分野でも、首相の指導力が制度的に強化されたことの検証に向け、基礎となる材料として、首相や官房長官が関係する外交・安全保障関係の会議および内閣官房におかれる外交・安全保障関係の部局についてのデータベースの作成に着手することができた。これを着実な進展と考えている。(2)また、日本がTPP交渉で国際的指導力を発揮し、「自由で開かれたインド太平洋」構想が提唱した背景には首相の指導力の強化があることを示した。首相の指導力が強化されたこととその展開が深く関係する「自由で開かれたインド太平洋」構想について詳細な分析を開始した。この研究の第二の目的である首相の指導力が強まった1990年代後半以降の時期とそれ以外の時期の外交・安保政策の比較をする上で、この構想は重要な比較対象となる政策であるため、大切な進展と考えている。 (3)さらにこの研究の第三の目的は1990年代後半以降の時期に、外交・安全保障政策の立案過程で、参議院が首相の指導力に及ぼした制約を分析することである。既に述べたように1980年代後半以降、参議院が首相の安全保障分野における政策立案過程に及ぼした影響について分析し、これをまとめた論文を英語査読誌に投稿することができており、重要な進展と考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度に「自由で開かれたインド太平洋構想」をはじめ1990年代以降の外交・安全保障政策に焦点を当てた。21年度には基礎的知識として第二次鳩山一郎内閣から第四次安倍晋三内閣までの各内閣の主要な外交・安全保障政策を把握する。また、1955年以降の内閣官房の外交・安全保障政策関連部局、内閣におかれた外交・安全保障政策に関連する会議を把握する。また、2000年代以降、首相や官房長官が関係する外交・安全保障関係の会議および内閣官房におかれる外交・安全保障関係の部局についてのデータベースの作成を継続していく。 2020年度に「自由で開かれたインド太平洋」構想が策定される経緯を分析した結果、この構想の展開には1990年代以降、首相の指導力が制度的に強化されたことが大きく寄与しているということが確認できた。従って、この政策はそれ以前の時期や首相の指導力が徐々に拡大する時期の外交政策や安全保障政策との重要な比較対象になるということも明らかになった。つまりこの政策をそれ以前の時期の外交政策や安全保障政策と比べることで首相の指導力が強化されたことが外交政策や安全保障政策の立案過程や内容に及ぼした影響を明確にできると考えられる。 このため今年度以降、この構想のもとで展開される政策と類似する、あるいは深く関係する政策に注目し、その内容や立案過程を明らかにする。1955年体制成立以降のアジア太平洋地域における地域協力構想、多国間経済交渉、防衛大綱に注目する。特に1980年代の環太平洋連帯構想やアジア太平洋協力構想の策定過程、1991年のASEANとの安全保障協力に関する「中山提案」の策定過程、ガットウルグアイラウンドの交渉過程、1977年以降策定されてきた防衛計画の大綱の策定過程などを検証し、一連の過程で首相や関係閣僚、内閣官房、関係省庁が果たした役割を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大のため予定していた北米への学会参加、国内の学会参加などがなくなり、またインタビューも行うことが困難になったため次年度使用額が生じた。ワクチン接種が間に合えば、今年度はスタンフォード大学などに意見交換のために訪問することを考えており、そのための旅費にあてる一方、インタビューも再開し、そのための速記録作成の謝金に充てる予定である。またこのほか、書籍の購入費などにも充てる予定である。
|
Research Products
(8 results)
-
-
-
-
-
-
-
[Book] The Political Economy of the Abe Government and Abenomics Reforms(うち第2章Expansion of the Japanese Prime Miniter's Power and Tranformation of Japanese Politicsを担当)2021
Author(s)
Takeo Hoshi, Phillip Lipscy, Harukata Takenaka, M Kohno, Y Maeda, S Reed, T Ito, J Hausman, T Unayama, J Wieland, A Kashyap, K Fukao, S Nishioka, M Bamba, D Weinstein, S Vogel, N Nagase, H Miyajima, T Saito, K Kushida, P Maclachlan, K Shimizu, T Incerti, A Liff, M McCarthy
Total Pages
542(25)
Publisher
Cambridge University Press
ISBN
978-1-108-84395-9
-