2020 Fiscal Year Research-status Report
多民族国家のナショナリズムに関する比較研究:イギリスとロシア(ソ連)を中心に
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20K01489
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
力久 昌幸 同志社大学, 法学部, 教授 (90264994)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河原 祐馬 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (50234109)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ナショナリズム / ネイション / イギリス / ロシア / スコットランド / エストニア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ともに帝国を経験したイギリスとロシア(ソ連)の事例を取り上げて、多民族国家である両者のナショナリズムについて、中核ネイションと周辺ネイションの概念を手がかりとして比較検討を行うことにより、それぞれの特質を解明し、近年ますます重要性を高めているナショナリズムについて理解を深めることをめざしている。なお、本研究は力久がイギリスを担当し、岡山大学の河原祐馬教授がロシア(ソ連)を担当する共同研究である。 2020年度に予定していた国内で実施可能な既存の理論および事例研究の整理については、おおむね順調に進めることができた。多民族国家のナショナリズム研究で著名なアラン=G・ガニョンの研究を中心に、中核ネイションと周辺ネイションの相互作用に関する先行研究の整理を行うことができたのは有益であった。また、多文化主義の政治に関する研究で著名なウィル・キムリッカによる民族的マイノリティとエスニック集団の対比および集団的権利と個人の権利の対比を参考にして、イギリスとロシア(ソ連)のネイションに関する認識を深めることができた。 2020年度の研究成果については、力久が、イギリスの周辺ネイションの一つであるスコットランドのナショナリズムについてEU離脱との関係について考察を進め、その研究の一部を大分大学のスティーブン・デイ教授との共著『ブレグジットという激震:混迷するイギリス政治』として、ミネルヴァ書房より出版した。また、河原は、ロシアのナショナリズムに関する研究の一端を、「ロシアにおける『反汚職』の政治」として『岡山大学法学会雑誌』に発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度の研究においては、本研究に関連する主要な理論・事例研究を取り扱った文献・論文の収集・整理をおおむね順調に進めることができたので、本研究が対象とする分野に関する先行研究の知見を批判的に検討したうえで、本研究の事例分析に適用する分析枠組の構築に向けて着実な前進をすることになったと思われる。 他方で、研究期間として2020年度から2022年度までの3年間を想定していた中で、初年度にあたる2020年度は、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により、研究計画の進捗状況に一定程度の影響が見られることになった。今年度は、ネイション、ナショナリズム、多民族国家などに関する既存の理論および事例研究の整理と考察を行うとともに、多民族国家の中核ネイションと周辺ネイションのナショナリズムについて理解を深めるために、イギリス(力久)およびロシア(河原)を訪問して研究調査を行う予定であったが、コロナ禍のために海外渡航が困難になったことで、海外での研究調査について今年度は断念せざるを得なかったのである。 2021年度の新型コロナウイルスの感染状況については予断を許さないところがあるが、ワクチン接種の進展により年度後半にかけて収束傾向が明らかになれば、2020年度に実施できなかった海外研究調査に取り組むことを考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度以降も、引き続き国内における文献・資料収集を継続しつつ、イギリス、ロシア、エストニアなどでの海外研究調査を行うことにより、本研究のさらなる深化を図って、当初の予定通り最終年度である2022年度までに本研究を完成させることをめざす。 なお、2021年度以降も新型コロナウイルスの感染拡大が続く可能性もあり、その場合には海外研究調査の実施が困難になることから、本研究の進展に一定の障害が発生することも想定しておくべきであると考えられる。そうした場合に備えて、直接現地で聞き取り調査などを行う代わりに、インターネットによる会議ツールの利用や、メールなどを使った文書による調査などを行う準備をすることを考慮に入れておくべきだろう。 本研究のいっそうの進展を図るうえで、イングランド、スコットランド、ロシア、エストニアのナショナリズム研究者との関わりが大きな意味を持つものと思われる。その点について、新型コロナウイルスの感染状況によってさまざまな手段を考慮する必要があるが、なるべく意見交換の機会を持つように最善の努力をしたいと考えている。 また、本研究の完成後に研究成果を広く社会に周知するために、力久と河原の共著でイギリスとロシアのナショナリズムを比較した研究書を出版する計画の立案についても進めていくことにしたい。
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Causes of Carryover |
2020年度には、ある程度の期間をとって海外研究調査を行うために、可能であれば授業期間外の9月と3月の2回、そうでなければ、3月にかなりの期間、力久はイギリス、河原はロシア、エストニアを訪問することを考えていたが、先述のように世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により海外渡航が困難になったことから実現できなかった。また、国内における研究の打ち合わせ等についても、年度内の数度にわたって感染拡大の波が発生したことから、対面会合および移動による感染の危険を考えてオンラインによる意見交換にとどめることとなった。その結果、海外および国内旅費支出について当初計上していた予算額を消化せず、相当程度の次年度使用額が生じることとなった。 なお、国内外での新型コロナウイルスの感染状況次第ではあるが、2021年度には2020年度から繰り越した金額を加えて、ある程度期間を取った海外研究調査を実施したいと考えている。
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