2021 Fiscal Year Research-status Report
Politics of EBM as an idea
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20K01492
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
宗前 清貞 関西学院大学, 総合政策学部, 教授 (50325825)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 医療制度 / 福祉国家 / EBM / 歴史的制度論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、EBMが導入された経緯と日本における導入過程及びその帰結について調査し分析することを目的としている。本年度は本格的な聞き取り調査に入りたかったのであるが、後述(進捗状況)するように依然として聞き取りの制約が厳しく、本年度も文献調査を進めることになった。 本課題研究を進める中で、医療政策・制度にはどの程度の冗長性(重複や予備などの余剰)が許容されるかを考察する機会があり、この新たな知見を本課題に繰り入れれば本課題の成果がさらに深まることを認識した。この研究は2021年度日本行政学会研究大会共通論題2「医療制度における冗長性―保健所再編の政策過程―」として発表し、発表草稿を改定した論文が同学会の2022年度学会誌『年報行政研究』に掲載される(校了済み)。 医療制度・政策における予算・規模の縮減は、一般に新自由主義などイデオロギー政治の帰結と考えられがちで、Covid-19対応における公衆衛生機関の機能不全はその結果だと考えられてきた。本研究ではむしろ過去の実践における成功体験と新たな危機対応におけるミスマッチこそが主因であることを明らかにした。このことで、EBM探究と歴史的制度論の接合可能性を見出したと考えており、今後の研究の進展が見込まれる。 また年度末からは科学哲学/科学社会学サイドでEBMをよりマクロに位置づける研究(具体的には松村一志『エビデンスの社会学:証言の消滅と真理の現在』など)と連動を図る試みを開始し、政策過程論的な本研究の底上げを測っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
採択(R2年4月)と同時に全世界をCovid-19疫禍が襲い、2つの点で本研究の進捗を阻害している。第一に、聞き取り対象となる人々が医療関係者であり、治療現場での安全性を優先するために部外者との接触に厳しい制約が置かれている点である。第二に、研究の特性上、政策形成に関与した厚労省官僚への聞き取りを必要とし、また申請時点ではその協力が約束されていたのだが、彼らが政府のコロナ対策の枢要ポストに就いているために、インタビューを受ける余地が全くなくなってしまった。 そこで、本研究の副次的テーマとして、医療政策に予期不能な危機が襲った場合に、機能不全をもたらす要因とその対応、具体的には中央政府・保健所そして医療機関の連携がなぜ進まなかったのかを探索している。 このアプローチは一定の成果を得ており、上述したように日本行政学会大会での報告や同学会年報の招待執筆に結実した。また、コロナ禍における医療体制の機能不全について全国的な取材を試みているNHKの制作陣から二次的聞き取り(つまり一次情報を取材したNHKディレクターから、そうした人々がどのような信念に基づいて取り組みを構築したのかという外縁的情報収集)を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、令和4年度に最終年度を迎えるが、現時点では年限内に当初予定の研究成果を達成するのは難しいと考えている。そこで 1)1990年代日本のEBM導入過程についての叙述的研究を完成させる 2)着手している医療制度の冗長性研究を包含し、EBMも含めた医療制度が機能する条件を明らかにしていく 3)それでも年度内終了が見通せない場合には研究期間の延長を考慮する 方向で研究展開を計画している。投入された研究費をムダにすることなく、かつタイムリーな話題を包摂して研究テーマの再構築を図りたい。
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Causes of Carryover |
2020年度と同様に2021年度もコロナ禍において聞き取り調査等がほぼすべて中止となり、当初予定していた研究調査用の出張が生じなかったために当初予定の研究費が費消されずに次年度使用額が発生した。 2022年度は、これまでできなかった旅行を実施するのでこうした費用を当初計画よりも多く消費する。また、有料データベースなどを活用して文献のより効率的な収集を図る予定である。
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