2022 Fiscal Year Research-status Report
国際開発規範と途上国政治との摩擦に対する国連開発計画(UNDP)の調整役割
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20K01512
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
真嶋 麻子 日本大学, 国際関係学部, 助教 (60598548)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 途上国開発 / 国連開発計画(UNDP) / 現地化政策 / ラテンアメリカ / ガバナンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、国際開発規範と途上国政治との摩擦を緩和するための国連開発計画(UNDP)の実践に着目し、国連機関が途上国開発の現場において担っている調整役割を解明することを目的としている。 本年度は、本研究課題の成果を単著としてまとめることに注力し、『UNDPガバナンスの変容―ラテンアメリカ地域における現地化政策の実践から』(国際書院、2023年3月)として出版した。具体的に明らかにしたことは、第一に、途上国のもつ様々な資源を取り入れることによって行われる、UNDPの開発業務の現地化は、主な資金供与国(ドナー国)、援助受入国(発展途上国)ならびにUNDPそれぞれの関心が絡み合いながら導入されたことである。第二に、実際の運用過程のなかで、現地化政策は導入当初の関心には収まらない機能を持つようになったことである。ここでは、開発業務に必要な諸資源を途上国側から調達することで、「援助する側-される側」という従来のUNDPと途上国との関係に変化が生じることにも注意を払う必要がある。つまり、現地化政策が実施されれば、途上国はUNDPに業務を実施する際に必要な資源を供与することになり、途上国がUNDPの「主人」ともなる状況が生まれる。途上国の関心を吸収しつつ、国連が掲げる開発理念に立脚した行動をとるためにUNDPが行った舵取りの様相が現地化政策の実践のなかに確認できた。そして第三に、発展途上国の国内政治および社会的摩擦への応答をとおした途上国との関係性のなかに、政策ならびに実践の修復の契機を得るUNDPという組織の特徴があることである。これは、国連が拠って立つところの国際開発規範と途上国政治の現実との間の調整過程の歴史そのものであり、独自の国連像の提示ができたものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画をしていた次の研究課題のうち、【課題③】以外の進捗は順調である。(【課題①】UNDPの現地化政策の運用過程についてデータを用いた量的把握を行う。【課題②】両国においてUNDP現地事務所が果たした機能を分析する。【課題③】現地事務所常駐代表経験者マーガレット・アンスティを事例として、UNDPスタッフによる軍事政権と国際開発規範との摩擦への対応方法を検討する。【課題④】全体を総括して、国際開発規範と途上国政治との間に立って調整を行うUNDPの機能についての研究書をまとめる。)とりわけ、本研究の全体にかかわる成果として、【課題④】が完了したことは大きな進捗だと考える。当初2022年度は、海外ジャーナルへの論文投稿を予定していたが、急遽、単著出版に比重を置くこととなり、結果として、本研究課題の成果の全体像に関わる研究成果の発表ができた。 他方で、新型コロナウィルスの感染拡大のもとでの海外調査に制約があり、当初予定をしていたマーガレット・アンスティのアーカイブスへのアクセスができていないことが、研究計画からの遅れである。本来は、オックスフォード大学Bodleian Library(イギリスオックスフォード)において、アンスティのUNDP常駐代表時代の書簡や演説を収集し分析することで、UNDPスタッフが途上国との間に生じる摩擦にどのように対応したのかについての事例研究を行う予定であったが、現時点では実現していない。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は研究課題の最終年であり、引き続き研究成果の発表に注力することとする。とりわけ、現時点で考えられる今後の課題として、①現地化政策という分析枠組みの有用性に関する比較分析、②個別事例とUNDP全体の政策や理念との関係についての考察、③国際開発のグローバル・ガバナンスにおける現業的活動の位置づけの解明が挙げられる。これらの点についても研究を推進することが、本研究課題に関連するさらなる成果へとつながるものと考える。 特に、国内外の学会(具体的には、日本国際政治学会およびACUNS(国連システム学術評議会))における口頭発表と報告ペーパーの提出を通じて、本研究課題の成果を議論に付すこととする。
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Causes of Carryover |
2020年度から2022年度にかけて、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、予定していた海外調査が遂行できなかったことが主な理由である。 2023年度は、日本国際政治学会およびACUNS(国連システム学術評議会)において研究成果を発表することを予定している他、対面での学会参加による情報収集を予定しており、出張旅費を支出予定である。その他、本研究を発展させるためにGlobal Governanceにかかる洋書シリーズや消耗図書の購入、消耗品の購入を予定している。
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