2022 Fiscal Year Research-status Report
EUの対ロシア認識の変遷―「共通の近隣」政策への影響と相互作用をめぐる多角的分析
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20K01520
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
東野 篤子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (60405488)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | EU / ロシア / ウクライナ / 東方パートナーシップ / ロシアによるウクライナ侵攻 / 制裁 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、ロシアとEUとが、双方の狭間に位置する旧ソ連諸国(主にジョージア、ウクライナ、ベラルーシなど)に対する政策をどのように展開し、その過程でロシアとEUが相互に対する言説・認識・政策をいかに変容させてきたのかを分析することを目的とする。 本研究課題申請時(2020年)においては、ロシアとEUとの関係は徐々に悪化しつつ、対立が極度に先鋭化していたとは言えない状況であったため、2020年度および2021年度に関してはEU/ロシア関係のこれまでの経緯を文献調査し、その都度成果を発信することに力点を置いていた。しかし2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受け、本研究をめぐる状況も大きく変化した。このため今年度に関しては、ロシアによるウクライナ侵攻の動向を逐一追い、得られた知見をメディア等に発信すると同時に、EUおよびG7の対ロシア制裁および対ウクライナ支援に関する分析を主とした。その際、EUにおける意志決定(とりわけ対ロシアエネルギー制裁や対ウクライナ兵器支援)において主導的な役割を果たした中・東欧諸国(とりわけポーランドやバルト諸国等)の対ロシア・対ウクライナ認識については集中的に分析し、とくに英語での口頭報告で成果を発信する機会を複数回にわたって得た。 すなわち2022年度に関しては、2021年度までに得られた研究知見をバックグラウンドとして用いながら、現在進行形の事象を分析し、また研究成果を広く発信することに注力したと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題申請時には、2022年度は2021年度の研究方針を継続し、EU・ロシア関係の経緯の振り返りを刊行物にまとめることを徐々に開始する時期と位置づけていたが、結局ロシアによるウクライナ侵攻の分析に明け暮れた一年となった。分析が必要な事象には事欠かず、一定の研究成果も上げることが出来たが、課題申請時に想定していた研究の進め方とは大きく異なっていたことは事実である。また、2020年度および2021年度に関しては、新型コロナウィルスの流行の関係で、課題申請時に予定していたヨーロッパ(EU加盟国及びロシア、ウクライナ、ジョージア、ベラルーシ)において現地調査を行うことが出来ず、その分を2022年度に実施したかったが、ロシアによるウクライナ侵攻の勃発により、ロシア、ウクライナ、ベラルーシへの渡航が極端に困難となった。EU諸国に関しても、航空機がロシア上空を迂回して飛行せざるを得なくなったため、欧州出張に要する時間が大きく増え、運賃も高騰した。このため、オーストラリアに渡航し、シドニー及びキャンベラの図書館で関連文献を閲覧するよう予定変更せざるを得なかった。 2022年度の進捗状況をまとめるなら、当初予定していた研究の取り纏めのための執筆よりも戦況の現状分析を重視し、発信の機会は数多く得られ、しかし海外調査の行き先と目的は戦争のため変更しなければならなくなった、という状態であった。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、オーストラリアのオーストラリア国立大学ヨーロッパ研究所(ANUCES)でサバティカルを過ごすことになっており、EU・ロシア関係やロシアによるウクライナ侵攻をインド太平洋地域から考察することになっている。オーストラリアは日本、韓国、ニュージーランドと同様に、NATOにおけるアジア太平洋パートナー(AP4)とされており、この侵略に際して対ロシア制裁と対ウクライナ支援にも深く関わっている。また、2014年のマレーシア航空撃墜事件(ロシアによる関与が疑われている)では多くのオーストラリア人が犠牲となっていることから、ロシアによるウクライナ侵攻に対するオーストラリアの関心も非常に高い。こうした事情から、2023年度はANUCESの資料を用いてEU・ロシア関係の経緯を改めて調査しつつ、現地の専門家や駐オーストラリアウクライナ大使館のスタッフなどへの聞き取り調査などを実施する。 なお、本研究課題が直接の対象としている諸国に関しては、ウクライナの戦況にもよるが、2023年度にぜひ現地調査が実施できるような状況にいることを期待したい。
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Causes of Carryover |
2021年度まで、新型コロナウィルスの流行により、本研究課題で現地調査を行う予定であったEU加盟国およびロシアに渡航できなかった。2022年度は前年度からの繰越し金を用いて、現地で数週間滞在の上調査を行う予定であったが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響のためやはり渡航できなかった。2023年度中の使用計画としては、①現在、本研究課題を実施することを主な目的として、オーストラリア国立大学ヨーロッパ研究所に滞在中であり、現地での資料や研究関連の物品の購入にあてる、②11月に博多で開催される日本国際政治学会にて、本研究課題に基づくパネルを主催する予定であり、現在研究のため滞在しているオーストラリアから日本への旅費として使用すう、③ロシアによるウクライナ侵攻の状況にもよるが、本研究課題が対象としている諸国への現地調査に使用する、等。
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