2020 Fiscal Year Research-status Report
国境の壁をめぐる国境産業複合体とガバナンス形成―米墨国境地域を事例として
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20K01526
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Research Institution | Chuogakuin University |
Principal Investigator |
川久保 文紀 中央学院大学, 法学部, 教授 (00545212)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 境界研究 / ボーダースタディーズ / 米墨国境地域 / 国境産業複合体 / 国境管理 / 国境ガバナンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、トランプ前政権以降、米国において急速に進展する国境の壁建設をめぐる政治・政策が米墨(アメリカ・メキシコ)国境地域にどのような影響を及ぼしているのかを多面的に検証し、市民の生活圏としての国境ガバナンスの形成の意義を考察することである。 初年度にあたる令和2年度は、本研究の着想を得るに至った米国カリフォルニア州のサンディエゴ州立大学における在外研究の研究成果を公表する時期と重なった。本研究の主たるテーマである米墨国境地域の軍事化と民営化を促進する「国境産業複合体」の実態について検証した2つの論文が、『現代思想』と国際学術誌Public Voices(Boston: Suffork University)に掲載されたことは初年度の大きな研究成果となった(「レイシズムと軍・法執行機関の融合化」『現代思想』2020年10月臨時増刊号及び“Privatizing Border Security: Emergence of the ‘Border-Industrial Complex’and Its Implications,” Public Voices, Volume XⅦ Number1,2020)。 また、市民の生活圏としての国境ガバナンスに関しては、米墨国境地域におけるサンディエゴ・ティファナを事例として、自治体、民間企業、大学・研究機関などの国境のステークホルダーが重層的に関与する形での定期協議体が形成され、政府に対して政策提言を行っている現状についても序論的考察を行うことができた(「トランプの壁と向き合う国境地域ー米国サンディエゴを拠点として」及び「サンディエゴ・ティファナ国境地域におけるクロスボーダーガバナンス」いずれも『中央学院大学法学論叢』34巻1号、2020年に掲載)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の初年度は、国際学術誌における英語論文の掲載も含めて当初予想していた以上の研究成果をあげることができた。初年度は、米墨国境地域を中心とした国境の壁建設をめぐる政治・政策の目的を明らかにするという観点から、その中心的な役割を担う米国国土安全保障省の国境管理・警備関連の資料データ及び米国議会調査局CRSや各種シンクタンク(Brookings InstituteやTransnational Instituteなど)の研究レポートを収集・分析し、論文執筆に生かすことができた。これらの過程において、サンディエゴ州立大学のポール・ギャンスター名誉教授、テキサス大学エルパソ校のキャサリン・シュタウト名誉教授、テキサス大学リオグランドバレー校のテレンス・ギャレット教授からは研究遂行上の有益なアドバイスを頂いた。初年度において、当初予想以上の研究成果をあげることができたのは、こうした研究ネットワークに依拠するところが大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の2年目にあたる令和3年度は、本研究を遂行する上での方法論となっている境界研究(ボーダースタディーズ)の理論的彫琢に関して、継続的に文献収集・分析を進める予定である。また、年度当初には、大会組織委員としてプログラム作成から参画するオンライン国際学会(Association for Borderlands Studies Virtual Conference: 2021年4月16日~4月18日)での米国の研究者とのラウンドテーブル報告("Border Issues and Governance under the Biden Administration")を行った。ここでの意見交換も今後の研究を推進する上で有益であった。とくに、本研究申請時には、トランプ政権が進める国境の壁建設をめぐる政治・政策が中心的なトピックであったが、2020年にバイデン政権が誕生したことを踏まえ、政権交代後の国境の壁建設をめぐる政治・政策の比較的視点を重視していきたいと考えている。 新型コロナウィルスの世界的蔓延により、本研究2年目以降における米国への海外出張・調査がいつ行えるのかは未定である。海外出張・調査を最終年度の3年目に行う可能性、あるいは本研究自体を1年延長して4年計画にしていくのかは、今後の新型コロナウィルスの状況を考慮しながら検討していきたい。 また、本研究の主たるテーマである「国境産業複合体」研究の第一人者であるトッド・ミラー氏(国境ジャーナリスト)とはすぐにコンタクトがとれる状況にあり、オンライン講演会(2021年5月21日にZoomにて実施)などを通じて定期的に研究上のアドバイスを受けている。今後予定される現地調査では、米墨国境地域に生活する人々や様々な団体にインタビューする方法や機会を提供してくれることになっており、コロナ禍ではあるが、本研究を遂行する上で必要な現地調査をいずれ実施できることを想定した準備を行っておきたい。
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Causes of Carryover |
少額であり、使用できないため。文献購入代に充てる予定。
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Research Products
(4 results)