2021 Fiscal Year Research-status Report
国境の壁をめぐる国境産業複合体とガバナンス形成―米墨国境地域を事例として
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20K01526
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Research Institution | Chuogakuin University |
Principal Investigator |
川久保 文紀 中央学院大学, 法学部, 教授 (00545212)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 国境産業複合体 / 移民勾留 / 壁の帝国 / 北米国境 / 国境政治 / 国境ガバナンス / ボーダースタディーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、トランプ前政権以降、米国において急速に進展する国境の壁建設をめぐる政治・政策が米墨(アメリカ・メキシコ)国境地域にどのような影響を及ぼしているのかを多面的に検証し、市民の生活圏としての国境ガバナンスの形成の意義を考察することである。 本研究の2年目にあたる令和3年度は、初年度における研究成果を踏まえ、とりわけ執筆活動に力を傾注した。米国の歴代政権にみられる「国境産業複合体」の強固な形成にみられる政策的な連続性を軸としながら、「国境産業複合体の構造と実態:米国の利益誘導型国境政治」星野智編『アントロポセン時代の国際関係』(中央大学出版部、2022年)及び「移民勾留の国境政治」『法学新報』(128巻9号、2022年)に纏めることができた。 また研究報告に関しては、日本比較教育学会の科研費研究会(基盤A「境界研究の分析法を用いた国境・境界地域における基礎教育に関する国際比較研究」研究代表 森下稔東京海洋大学教授)に講師として招聘され、境界研究の方法論を、比較教育学を専攻する研究者たちと意見交換する貴重な機会に恵まれ、境界研究の地平の広がりと学知の協働の必要性を再認識することができた(「境界研究のパースペクティヴ」東京海洋大学越中島キャンパス、2021年12月18日)。学内における研究報告として、国境の壁を造る米国政治の歴史的展開に関して、「「壁の帝国」アメリカ:国境を見る視角」(オンライン研究報告、2021年10月6日)と題した報告を行った。本研究を着想する上で重要な出来事となった米国における在外研究の研究成果を、地域社会に還元する作業の一環として、「米国大統領は世界最強なのか?:連邦議会と政党との関係を中心に」(千葉県香取市「市民カレッジ」講座、佐原中央公民館、2021年6月19日)も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」において、本研究の2年目にあたる令和3年度は執筆活動にとりわけ集中したと記したが、最大の成果は、中央大学大学院法学研究科に博士学位論文を提出し、論文審査・口頭試問を経て、博士(政治学)を取得したことである。「米国のホームランド・セキュリティと国境ガバナンス:北米地域に関する政治学的考察」と題した博士論文は、研究代表者がこれまで執筆してきて諸論文を、境界研究(ボーダースタディーズ)の方法論を軸としながら再構成したものである。博士論文では、とりわけ、2001年の同時多発テロ以後、米国のホームランド・セキュリティの強化によって、北米地域において国境の軍事化・民営化が進展し、それに対抗する形で市民社会組織を中心とした国境ガバナンスが形成されてきている過程を析出した。国境管理を地域全体でマネジメントしていくという在り方は、欧州連合(EU)を代表として、多くの研究の蓄積がみられるが、北米地域における国境の共同管理に関する本論文は、その空白を埋めるものとして位置づけられる。本研究との関連でいえば、博士論文の「第三章 国境産業複合体―セキュリティの担い手たち」および「第四章 移民勾留の国境政治」は、本研究のメインテーマである国境の軍事化・民営化や国境ガバナンスの分析において重要な意味をもつ。さらには、重層的なレベルで国境管理が行われ、国家以外の多様なアクターが密接に絡まり合いながら形成される国境ガバナンスは、米国のホームランド・セキュリティの強化ばかりが強調される北米地域において着目されるべき政策動向であると指摘した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、本研究の3年目にあたる令和4年度中に博士論文の書籍化を行うことである。書籍化にあたっては、方法論の精緻化、事例研究の整理、データのアップデートなどを含めて、大幅に加筆・修正する箇所もあるが、それらを踏まえた執筆スケジュールを作成し、年度内の刊行を目指す。政治学や国際関係論のテキストとしての位置づけをもたせることから、本研究の教育活動への還元もできる限り行いたい。 本研究がスタートして以来、新型コロナウィルスの蔓延によって、海外における調査活動が行えない状況にあった。しかし、パンデミックの状況が改善し、渡航・帰国に関する制約が緩和されることになれば、夏期には米国の国境地域への2週間程度のフィールド調査を行いたいと考えている。米墨国境地域のカリフォルニア及びアリゾナを中心として、米加国境地域にも足を運びたい。新型コロナウィルスの蔓延後の国境管理の現状が、国境地域の生活圏に与える影響とその帰結について、文献・資料収集およびインタビュー調査を行いたい。米国カリフォルニア州のサンディエゴ州立大学などの研究機関では文献・資料収集を行い、研究者ばかりではなく、国境管理に携わる政府や自治体の関係者、NGOなどにインタビュー調査を行うことができればと考えている。 年度内の総括的な報告として、2023年2月13日から18日までイスラエルで開催される国際学会The Third World Conference of the Association for Borderlands(ABS)における公募パネルに応募し、本研究の成果の一部に関する報告を行う予定である(対面とオンラインのハイブリッドによる開催)。また、この国際学会において準備する英文フルペーパーを、英文査読ジャーナルに投稿し、本研究に関する国際的な発信を積極的に行っていきたい。
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Causes of Carryover |
令和3年度は、新型コロナウィルスの蔓延のために、海外におけるフィールド調査を行うことができなかったために、次年度使用額が多く発生することになった。令和4年度は、とりわけ夏期休暇を利用し、米国を中心として、文献・資料収集およびインタビューを含めたフィールド調査を行いたいと考えている。
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Research Products
(4 results)