2022 Fiscal Year Research-status Report
国境の壁をめぐる国境産業複合体とガバナンス形成―米墨国境地域を事例として
Project/Area Number |
20K01526
|
Research Institution | Chuogakuin University |
Principal Investigator |
川久保 文紀 中央学院大学, 法学部, 教授 (00545212)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 国境産業複合体 / ボーダースタディーズ / 国境の壁 / アメリカ / 国境政策 / 生政治国境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、米国の「国境の壁」をめぐる政策がトランプ政権以降、急進化している現状を多角的に考察したうえで、米墨(アメリカ・メキシコ)国境にどのような影響を及ぼしているのかを検証し、市民の生活圏としての国境ガバナンスの形成の意義を明らかにすることである。 本研究の3年目にあたる令和4年度は、令和3年度に提出した博士学位論文「米国のホームランドセキュリティと国境ガバナンス―北米地域の政治学的考察」に大幅な加筆修正を行い、『国境産業複合体―アメリカと「国境の壁」をめぐるボーダースタディーズ』として青土社より公刊した。いくつかの書下ろしを加えたうえで、研究者ばかりではなく、一般読者にも分かり易いように表現なども見直し、写真や図表も多く掲載した。令和3年度の「実施状況報告書」において記載したように、2019年度に取得した米国における在外研究の成果を十分にふまえながら、博士学位取得から1年で著作として公刊できたことは、令和4年度の大きな成果であったと考えている。また、共著である『国際関係学―地球社会を理解するために(第3版補訂版)』では、担当箇所である「国境問題」に加筆修正を加え、現在のバイデン政権においても、国境の壁を造る政治・政策が継続され、ハイテク化された国境の壁の建設が推進されている現状についても論及した。 令和4年度もコロナ禍にあって海外調査が計画通りに実施できなかったために、国内において調査活動を行った。ロシアによるウクライナ侵攻や中国の海洋活動の拡大などに代表されるように、国家間対立や地域情勢の影響を直接的に受ける日本の境界地域(稚内、石垣、隠岐の島)を訪れ、自治体関係者や住民から聞き取り行うことができた。国境問題の縮図である日本の境界地域の現状について正確に理解することは、本科研の方法論としてのボーダースタディーズの理論的彫琢を行ううえで重要であると認識した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究実績の概要】に記載したように、令和4年度の最大の研究成果は、本科研のテーマである「国境の壁をめぐる国境産業複合体とガバナンス形成」を正面から取り扱った単著を公刊できたことである。こうした観点からいえば、本科研の当初予定していた3年間において最終成果を纏めることができたといえる。ただ、海外調査の実施や国際学会における報告という点では、コロナ禍で研究計画通りに進まなかったことは否めない。予定していたイスラエルでの国際学会報告も、報告の応募申請自体はパスしていたが、ビザの関係や学務などの兼ね合いから実施することができなかった。研究期間を1年延長した令和5年度においては、こうした点をふまえ、研究活動の遂行に努めたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
【今後の研究の推進方策】としては、令和5年度の夏期休暇に海外調査の実施と国際セミナーでの報告を計画し、本科研の研究計画書に記載した「国境の壁と政治体制の関係」について研究を行いたいと考えている。国境の壁を作る政治・政策の推進は、アメリカに限られた現象ではなく、イスラエル、トルコ、インド、スペインになどの国によっても推進されている。民主主義や権威主義という政治体制の相違が、国境の壁を造る政治・政策にどのような影響を及ぼしているのかについて、ポピュリズム研究の手法も用いながら明らかにしたい。現時点では、旧知の研究者が活動しているトルコでの国際セミナーにおける報告や関連文献の翻訳作業と出版を考えている。
|
Causes of Carryover |
令和4年度は、新型コロナウイルスの影響や単著刊行の準備に傾注したために、予定していた海外調査などを実施することができなかった。それゆえに、次年度使用額が発生することになったが、令和5年度は海外調査や国際セミナーでの報告を予定している。
|
Research Products
(3 results)