2021 Fiscal Year Research-status Report
Study on delay economic dynamics and its application
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20K01566
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
松本 昭夫 中央大学, 経済研究所, 客員研究員 (50149473)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 時間遅延 / 限定合理性 / 安定性交代 / 複雑性動学 / NPS汚染 / 環境課金 / 優臨界ホップ分岐 / 非線形性 |
Outline of Annual Research Achievements |
遅延非線形動学の基礎的な研究分析として、伝統的な独占理論に以下の3つの修正を加え、再考察を行った。(1) 線形の需要関数を右下がりではあるが、内在する非線形の為に限界収入曲線は必ずしも右下がりにはならない。(2) 情報の取得に遅れが生ずる。(3) 得られる市場情報は限定的である。限定的な情報量の違いにより、需要関数を既知とするkonwledagble monopoly と未知とするlimited monopoly に分け、利潤最大化行動のもとで、この情報量の違いが動学的な行動にどのような影響を与えるかを考察した。主な結果は以下である。(1)遅延の不安定性を示す安定性交代曲線を導出し、不安定条件を求め、二つの独占企業の比較。(2)大きな調整係数はより複雑な動学を生み出す。(3)基本的にに企業は異なる行動をとるが、ある一定のパラメータ条件下では情報量の過多がある二つのきぎょうは同一の特性方程式をもち、類似の動学的変動を示すことが確かめられた。(4) 中心多様体理論を応用し、数値的に求められたHopf分岐がsupercritical(定常点の不安定化から安定的極限循環の発生)であることを分析的に示した。 非線形動学理論の応用として、NPS(非点源)汚染の抑制効果について考察した。単純化のため複占市場における企業の利潤最大化行動を定式化する。この企業は製品差別化されている財を生産し,同時に汚染物質も排出する。政府は過大な汚染排出に対し税金を課し、過少な汚染に対しては補助金を出すような環境政策をとる。静学的な効果としては以下の結果が求められた:増税にたいし、個別企業は汚染(生産)を増加する場合もあるが、市場全体としての汚染量を下げる効果がある。動学的には安定領域を拡大し、周期半減分岐により不安定変動を和らげる効果があることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生産遅延(time-to-Build)が経済成長に与える影響を考察するために、新古典派流の2部門経済成長モデルを構成し、生産技術が(1) Leiontief型、(2) コブダグラス型あるいはCES型の二つのケースを想定したうえで、生産遅延の動学の安定性への影響、Hopf分岐を通じた循環解の存在等、理論的な分析はほぼ順調に進展している。 理論分析の結果の実践的な応用ということでモデルパラメータを適宜設定して、カリブレーションを試みている。現時点では、Leiontief生産技術をもと2部門モデルの、主に1960年からバルブ崩壊前の1995年までのあいだに観察されているいくつもの景気循環に対する説明力を調べている。2部門新古典派モデルは完全雇用モデルであるが、考察対象時期の失業率は1%以下であるので、日本の労働市場は完全雇用が実現しているとみなし、このモデルを適応するのは許容範囲と考えている。問題はこの時期の日本経済を2部門に分けた場合の、資本集約度、資本係数、労働係数等の実際のデータの取得にかなりの困難が伴うことである。この点を補うために、データ不入手に備えて数値シミュレーションも同時並行的に進めている。同様に、カリブレーション、数値シミュレーションは連続的な生産関数をもつ(2)のケールについても考察を行う予定である
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Strategy for Future Research Activity |
遅延分析の今後の推進方向としては将来の期待を表すadvanced term含むより一般的なdelay-advanced 微分方程式システムの構築およびそのシステムの動学的特性の分析を視野に入れている。しかしながら、delayed termとadvanced termを同時に含むシステムを解析的に分析する手法は確立されていないので、いくつかの工夫が必要になる。以下のような方法を応用しようと考えている。まずは両タームを含む簡単な経済モデルの構築。これを以下の4つの方法で分析する。(1) advance termを含む主方程式とそれに対する随伴方程式を定義し、前者を後者に同期(synchronization)させる。(2) advanced 変数と不変な関係をもつ現時点で評価される変数を定義することで将来の期待を現時点で評価する。(3) advance termを含む方程式を同じ解をもつ遅延方程式により代替する。(4) advanced termをもつ方程式をTaylor近似をおこなう。かなり限定的な手法ではあるが、advanced termの出現の動学に与える効果をある程度分析できると思われる。 上記分析の結果に依存するが、遅延を含む2部門最適経済成長モデルの動学的考察も視野には入れている。最適モデルに遅延が含まれる場合には、その動学方程式システムはかならずdelayed-advanced differential equation systemになるので、解析的に考察できる可能性がある。
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Causes of Carryover |
コロナ感染の影響で、国内外の出張(研究成果発表、共同研究等)が実施できなかっとことが計画との齟齬の大きな原因。コロナ感染の影響は世界中に残っており、今年度ですべての助成金を使用することは困難であると思われるので、一か年の計画延長を考えている。
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Research Products
(5 results)