2023 Fiscal Year Research-status Report
Reconsideration of the significance of "Ordnungsoekonomik" and the concept of "Sozialstaat" in Germany
Project/Area Number |
20K01574
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
福澤 直樹 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (10242801)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | オルドリベラリズム / 新自由主義 / 社会国家 / 福祉国家 / ドイツ / 子どもの権利 / 青少年福祉 / 経済秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度においてもこれまで通り、社会国家概念とその歴史的実践についての検討を行った。まずは前年度より社会政策学会大会や政治経済学・経済史学会福祉社会研究フォーラム研究会で議論をしてきた坂井晃介氏の著作『福祉国家の歴史社会学:19世紀ドイツにおける社会・連帯・補完性』についての書評論考を公刊した。 また前年度までは海外に出ることが叶わなかったところ、令和5年度は2回にわたりドイツに渡航し、研究のための一次資料の収集や現地の刊行物の選定などを行った。令和5年度はとくに両大戦間期の子どもの権利という観点からドイツの社会国家性の分析・考察をあらためて行い、とりわけ1922年のライヒ青少年福祉法にいたるまでの社会経済構造や、社会国家性に係る理念、同法の運用と理念との関係を中心として、資料を収集した。戦間期における子どもの権利という共通テーマの下では、日本や他のヨーロッパ諸国を専門とする研究者らとともに議論を深め、比較の観点を込めた共著書の刊行を行うべく、共同研究会を重ねた。令和5年度中の刊行とはならなかったが、当該問題についての論考はすでに脱稿し、刊行に向けての準備を進めている。 令和5年度にはこのほか、森宜人氏の著作『失業を埋めもどす―ドイツ社会都市・社会国家の模索―』についての書評論考を執筆した。当該年度中の刊行とはならないが、『西洋史学』の次号に掲載される予定である。さらに、本研究課題の正式な成果となるものではないが、ここで得られた知見をベースに、第43回EU情報センターのセミナー講演(7月14日)、放送大学愛知学習センター公開講演会での講演(7月16日)なども行い、一定の社会貢献にも努めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度から令和4年度まではコロナ禍で、予定されていたドイツ出張はもとより、国内の移動もほとんどままならなかった。令和5年度になりようやく事態は沈静化の様相を見せ、年度中に2回にわたりドイツに渡航することもできた。現地ではアーカイヴ資料をはじめとする一次資料の収集を行うことができ、秩序経済学、ドイツ社会国家、社会的市場経済などに関連する新刊をはじめ、現地での研究状況を把握し、必要文献の選定を行うこともできた。(調達は令和5年度中の研究成果となる共著書の刊行の目途がついた令和6年度以降に一気に進めていく予定であり、予算の執行も順調に進むことになる。) なお、令和4年度・5年度の研究活動については、本研究課題が当初主要な目的とした方向性に比して、やや脇道に入った感がある。本来の主要目的、すなわち秩序経済学の有用性の検討、社会国家理念の基盤となってきた経済秩序ないし経済思想と現実政策との関連については、(青少年福祉という部分的な領域にとどまることなく、)今後さらに検討を続けていく意向である。つまり、コロナ禍の影響のもと、研究計画の進行に障害が発生したため「やや遅れている」状況にはなった(これが最大の理由ではある)が、計画が全体として後ずれになっているだけで、本来の研究目的は変わることなく進行中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和4年度・5年度に一時的に両大戦間期の青少年福祉に限定していた対象領域を、ドイツの社会国家を特徴付ける社会的市場経済下の自由主義的介入がより多く反映された第二次大戦後に向けていく。経済秩序理念が具体的な政策にどのように反映されたのかという本研究課題の本来の問に立ち返り、現実の政策立案・履行過程を、一次資料に基づき検証する。令和6年度においても一回、ドイツ現地を訪れ、主に連邦文書館の中でも戦後の資料を収蔵したコブレンツ館で資料調査を実施する(令和5年度は両大戦間期資料を収蔵するベルリン館を訪問)。また前年度訪独自に選定した一連の関連諸文献も調達する。 本研究課題において枢要となる社会国家、社会的市場経済、オルドリベラリズムなどの諸概念ないし理念は、それぞれが近接したものであるかのように見え、或いは往々にしてそのように扱われるが、概念の来歴やその表象の次元はそれぞれ異なる。その相違を踏まえた上で現実政策との連関性を明確にし、さらにそこにおける秩序経済学的アプローチの有効性ないし意義を丁寧に考察していきたいと考えている。 これら一連の考察の成果をまずは研究論文として公刊していく計画である。そして本研究課題での考究を、市場経済秩序下での社会的共同性のあり方、その歴史的多様性や、時間的流動性の考察へとつなげ、それを通じてドイツ社会国家概念のさらなる精緻化を図っていくという、より長期的な構想をもっている。
|
Causes of Carryover |
本研究課題において費用を要する重要な活動は、ドイツ現地での一次資料の調査・収集および本邦で入手困難或いは内容確認ができない文献の調査および必要に応じた調達である。国内の研究機関所蔵の文献調査も同様に重要であり、また研究成果の発表なども必須事項である。それゆえ国内外の旅費や(文献調達のための)設備備品費が、とりわけ大きな位置を占める。これに即した相応の予算計画が当初立てられていたが、コロナ禍の影響で令和2年度から令和4年度までは一度も海外に出ることはなく、その間の国内旅費もほとんど手つかずであった。文献調査にも支障が出ていたため設備備品費の執行も十分には行われなかった。 令和5年度にようやく状況が沈静化されたためドイツへの渡航をはじめ、十全の研究活動と予算の執行が可能となった。それまでは制約された条件下で実行可能な個別的な局面に限定された研究活動を行ってきたが、令和5年度から、また令和6年度の見通しとして、本研究課題において本来志向していた研究内容を実行していく環境が整ったことになる。つまり本研究課題の目的として設定された研究が、後ずれで実施されていくかたちになりつつある。令和6年度においても資料収集を目的としたドイツへの渡航を一回、また国内出張も複数回行いつつ予算を執行していく予定である。また関連新刊図書を中心に、文献資料の整備にも積極的に予算を使用していく意向である。
|