2021 Fiscal Year Research-status Report
Thoughts and behaviors of pro-NEP economists: From a viewpoint of the reconstruction of markets and money
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20K01583
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
森岡 真史 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (50257812)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | リトシェンコ / ユロフスキー / カフェンガウス / 農業社会化 / 土地社会化 / ネップ / 社会主義 / 資本主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
第1に,ネップ期にソヴェト政府機関の専門家として農民経営の構造分析やソ連の国民経済バランスの推計について多くの著作を残したリトシェンコが1922年に検閲を顧慮せず執筆し,2001年に初めて公刊された草稿『ロシアにおける土地社会化』を検討し,彼がネップ期にも社会主義を徹底して批判する立場を維持していたことを確認した。 第2に,リトシェンコが『土地社会化』で展開し,農業社会化の困難という視角からの社会主義批判が,同時期のミーゼスやブルツクスによる,経済計算の消滅という観点からの批判に匹敵する価値をもつ,独自の貢献であることを明らかにした。『土地社会化』の特徴は,国民経済の発展には農業と工業の市場的連関の確立が不可欠であるという視点から,膨大な数の小規模な農民経営を主たる担い手とする農業を社会化する試みに伴う固有の困難,なかでも都市が必要とする穀物の確保における困難に焦点をあて,革命政府がある時点で農民に対して抑圧的な態度に転じることの主要な原因を,穀物確保の困難が生み出す飢餓の脅威という問題のもつ切迫性に求めている点にある。社会主義を論じるにあたってリトシェンコが農業問題を中心に据え,数百万の農民から独立した生産者としての地位を奪おうとすることがどれほど悲惨な事態を引き起こすかをロシア革命後のソヴェト農政の具体的過程に基づいて究明したことの意義は,きわめて大きい。 第3に,リトシェンコと同様にネップ期に専門家として活躍したユロフスキーとカフェンガウスが1917-18年に執筆した政治評論を検討し,両者がロシアの発展の方向を法の支配と資本主義経済の成長に求める立場から,十月革命を西欧的な発展の道からロシアを遠ざけようとする最も危険で有害な試みとみなしてこれに鋭く対峙しており,ネップ期の両者の検閲と政治的自制の下での言説の検討においてはその点を考慮する必要があること,を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
リトシェンコ,カフェンガウス,ユロフスキーの三者について十月革命期の著作とネップ期の著作を比較してそれらの間の連続性について間接的な考察を行うことを予定していたが,リトシェンコの当時未公表の草稿『ロシアにおける土地社会化』の検討を通じて,リトシェンコについては,二つの時期の思想に間に,個々の点での認識の深化を伴いながらも,全体としては明確な連続性があることを直接に確認することができた点で,昨年度の遅れを取り戻す大きな進捗があった.
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍の状況の緩和を待っていたが,ロシアのウクライナ侵攻によって,ロシアの図書館での調査が引き続き困難となっている.2021年度の研究は主としてこれまで収集した文献やインターネット公開された資料等を用いて行ってきたが, さらに調査を要する点については,ロシアの図書館での調査が当面見込めないことを想定し,ロシアでの入手を予定していた資料の欧米および国内の図書館での所蔵状況を改めて確認し,ILL等の方法により,資料の入手に向けて最大限の努力を行う.
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Causes of Carryover |
コロナ禍により出張全般について慎重を期す必要があったことに加えて,2月に予定していた資料収集のためのロシア出張も情勢の悪化により実施が困難となった. 2022年度については,ロシアへの出張については困難な状況が続くという想定の下で,資料の所在状況を再度確認のうえ,調査可能な国に出張先を変更する.
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