2020 Fiscal Year Research-status Report
相関反転可能で非対称なsplit-normalコピュラと金融危機・バブルの分析
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20K01588
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
小林 正人 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (60170354)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | split-normal 分布 / copula / EU金融危機 |
Outline of Annual Research Achievements |
「研究実施計画」に記述した本年度の研究は順調に進み、2変量のsplit-normal分布を用いた、上端と下端の相関符号が独立に変化するコピュラの開発作業は終了し、移動平均による推定のPythonによるプログラムを完成させた。このプログラムを多重コアを持つワークステーション上で稼働させ、人工的データによるシミュレーションを用いた標準誤差の計算を研究期間中に完成した。これにより伝統的な仮説検定の枠組みでのデータ分析が可能になったので、これらのプログラムと数値結果をもとにEU金融危機の実証分析をおこなった。 その結果、その前年度までおこなってきた予備的な研究による予想が厳密な仮説検定によってもほぼ裏付けられた。すなわち、金融危機において大きな打撃をうけた国々(スペイン、ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ)では、株式市場と証券市場の収益率間の相関は負から正への転換し、さらに分布の下端での相関が大きな正の値を示したことが確認できた。これに対して、ドイツなどEU金融危機において大きな損害をうけなかった国では、株式市場と証券市場の収益率間は負の相関を維持し続けていた。これらの結果は、上端と下端の相関符号が独立に変化するコピュラの開発なくしては検出できない結果であり、研究の目的の最初の段階がすでに達成されたことを示すものである。 この結果は英文にまとめ、すでに様々な研究者からのアドバイスを受け、国際的な学術雑誌に投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予備研究ではRを用いたプログラミングをおこなったが、本年度の研究では共同研究者の支援と示唆により、プログラム全体をPythonにより書き換えた。また複数コアを持つワークステーションを複数台導入することによりプログラム実行の効率は飛躍的に向上した。これらの環境により2変量コピュラの推定方法の開発および実証分析への応用は期待以上の速さで進展し、論文を完成するに至った。 しかし、3変数以上への拡張は、数値計算上の困難のために断念せざるを得ないと思われる。RによるプログラムをPythonに書き換えることによる計算速度の高速化を期待したのだが、その改善は十分なものではなく、推定はともかく、繰り返し計算による標準誤差の計算は現段階では不可能とせざるを得ない。 実証分析においては、EU諸国のデータにたいしては予期された結論、すなわち、ストレス下の二つの市場収益率間の相関は平常時の相関とは異なった符号をとるという結論を得た。しかし、それ以前の他のアジア金融危機やラテンアメリカの債務危機については十分なデータを得ることができないため、本研究で開発した手法の本格的適用は困難であり、EU金融危機での知見の他の金融危機への一般化にはまだ成功していない。また、EU金融危機後のいくつかの小規模の債務危機についてのデータ分析を試験的に行っているが、複数資産の収益率の相関符号の反転と下端と上端での相関の乖離という現象の同時発生を一般化することには成功していない。
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Strategy for Future Research Activity |
3変数以上への拡張は、数値計算上の困難のために断念せざるを得ないため、vine コピュラと呼ばれる方法の研究を行う。この方法は2変量コピュラをチェーンとして接続するものであり、計算も解釈も容易であり、実用性が高い。その反面、コピュラ相互の接続には恣意性があるため、モデル選択のプロセスには丁寧な説明が必要であるが、この分野の研究の進展については十分な知識を持っていないため、文献探索から行う必要がある。 もう一つの研究方向はsplit normal コピュラ自体の一般化である。2変量のsplit normal コピュラは、直交する2つの軸にそって切断することが可能であるが、2020年度の研究では1つの軸のみを考えてきた。この方法では解釈が容易になるが、split normal コピュラの柔軟性を十分に活かし切れていない。1軸のsplit normal コピュラにくらべて未知係数の数は1つ増えるものの十分に計算機の能力の範囲内と思われるので、2021年度以降の研究でその推定方法の開発を試みる。その柔軟性を活かした分析対象はまだ明らかでないため、実証、応用対象についての広範囲の文献探索も必要である。 また、金融危機における資産収益率の変化は資産の国際間移動が原因と考えられるが、そのデータの入手は困難であるため直接の分析は困難である。間接的に資本資本移動の特質や量を識別できるような現象や変数の探索を行い、実証面からも分析の進化を目指したい。
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