2021 Fiscal Year Research-status Report
Automation and Economic Growth in a Task-Based Approach
Project/Area Number |
20K01609
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
池下 研一郎 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (80363315)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 自動化 / タスク・モデル / 経済成長 / AKモデル / 所得分配 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,「タスク(業務)分析」の手法を導入した経済モデルを用いて,AIやロボティックスによる自動化が,経済成長や所得格差に対してどのような影響を与えるのかを明らかにすることである。 2021年度は研究計画に従い,計画②「自動技術の導入メカニズムに関する静学分析」を実施した。分析の結果,タスク生産において自動化技術が利用できるかどうかが,経済全体の生産構造に大きく影響することを明らかにした。特にあらゆるタスクについて自動化技術の利用可能性が高い場合には,最終財の生産量は,資本量や労働量に関して漸近的に比例することを確認した。したがってタスク生産においてスムーズな自動化が実現するとき,マクロ経済の構造は実質的にAKモデルと同じになり,資本蓄積のみで持続的な経済成長が可能になる。その一方で自動化を伴う経済成長の過程では,賃金は一定になる(あるいは賃金上昇が抑制される)ことも明らかにした。この結果は自動化による経済成長が必ずしも労働者の利益とはならないことを示しており重要である。これらの結果は2021年6月のSAETコンファレンスで報告され,現在,ある国際ジャーナルへの投稿を準備中である。また計画②については,自動化への補助金政策の効果を分析した論文も執筆しており,これについては2021年11月に日本応用経済学会秋季大会にて報告を行った。 また年度後半からは計画③「労働の質を考慮したモデルの拡張と分析」に着手した。具体的には機械と代替的である単純労働者と,補完的な知識労働者という2つのタイプの労働者が存在するようなケースを分析した。分析の結果,自動化技術の進歩は知識労働者の賃金を高める一方で,単純労働への需要減少を通じて,単純労働の賃金低下をもたらすことを明らかにした。現在はこの結果を動学分析に拡張するため研究を継続している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は,本研究課題の2年目ということで,前年度に引き続き計画②「自動技術の導入メカニズムに関する静学分析」を実施した。分析の結果,①自動化されるタスクの数が要素市場の需給バランスをスムーズに反映するように決定されるならば,集計的な生産関数は線形(あるいは漸近的に線形)となること,②資本蓄積経路に沿ってスムーズに自動化技術を採用していくならば,経済は恒久的な技術進歩なしに,持続的成長を達成できること,③経済成長の過程で資本の賃貸価格と賃金は一定になる(あるいは一定値に収束する)ことを示した。これらの結果は英語論文にまとめられ,現在投稿の最終段階にある。 また当初予定通り計画③「労働の質を考慮したモデルの拡張と分析」にも着手した。このテーマについても,自動化技術の進歩が知識労働者と単純労働者の間の賃金格差をもたらす可能性があることを単純な静学モデルを用いてすでに明らかにしており,現在は共同研究者とモデルの拡張について議論しているところである。 最後に本研究と関係するものとしては,2021年6月に過去の知的財産保護政策に関する英語論文を改訂して,英文書籍の編集・出版を行った。また2021年11月には福岡・関西エリアのマクロ経済学研究者との研究会を実施した。これらの活動を通じて行われた意見交換は本研究課題に推進に役立っている。 このように本研究課題はおおむね研究計画の通りに進行しており,いくつかの成果もあげつつある。したがって進捗としては「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,本研究課題の最終年度ということもあり,前年度までの研究成果と当初の研究計画を踏まえて,以下のように研究を進めていく。 まず計画③「労働の質を考慮したモデルの拡張と分析」では,それまでの研究成果を踏まえて,自動化技術の進歩が労働者間の賃金格差に対してどのような影響を与えるのかを分析する。本計画については,すでに自動化技術の進歩が賃金格差を拡大させるという暫定的な結果を得ているが,22年度はさらに世代重複モデルなどを用いて,長期的な経済成長や厚生に対する影響も明らかにしていく。 また計画④「成長モデルを用いた統合的分析」では,計画②や③の分析を新古典派成長モデルや内生的成長モデルに拡張し,自動化と経済成長・所得分配のダイナミックな関係を明らかにする。新古典派的成長モデルでは,自動化技術の進展が,資本蓄積を通じてもたらす効果を示す。また内生的成長モデルを用いた分析では,研究開発部門を導入することで,自動化に関する技術革新が,経済成長や所得分配に与える影響を明らかにする。 なおこれらの研究によって得られた成果については,各種国内学会,研究会,国際コンファレンスで報告を行い,国際査読誌に投稿を行う(新型コロナウイルス感染症の流行次第ではあるが,国内外への出張も再開したい)。最終的には3年間の研究成果を取りまとめ,AIやロボット技術が経済社会に与えるインパクトを明らかにしたい。
|
Causes of Carryover |
2021年度も新型コロナウイルス感染が収束せず,出張のための旅費がほとんど支出できない状況になった。また研究用の資料についても大学の基盤研究経費から優先的に支出したため,多額の次年度使用額が発生した。2022年度については,感染状況を見ながら国内出張を再開する。具体的には東京,神戸,三重への国内出張(研究打ち合わせ)を予定している。またリサーチ・アシスタントの雇用,論文の英文校正費、資料の購入などに対しても計画的に支出する予定である。
|