2022 Fiscal Year Research-status Report
Automation and Economic Growth in a Task-Based Approach
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20K01609
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
池下 研一郎 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (80363315)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 自動化 / タスク・モデル / 経済成長 / 補助金政策 / 所得分配 / 賃金格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,「タスク(業務)分析」の手法を導入した経済モデルを用いて,AIやロボティックスによるタスクの自動化が経済成長や所得格差に対してどのような影響を与えるのかを明らかにすることである。 2022年度は研究計画に従い,計画③「労働の質の違いを考慮したモデルの拡張と分析」を行った。具体的には機械と代替的である単純労働者と,補完的な知識労働者(IT技術者)という2つのタイプの労働者がいるような状況で,自動化技術の向上やIT技術者の育成・供給が経済成長や所得格差に与える効果を分析した。分析の結果①長期的にタスクの自動化が進み,労働分配率は低下する,②初期に労働者間の賃金格差は縮小する一方で,後に拡大に転じる,という2点を明らかにした。これらの結果については,「オートメーションと人的投資の動学モデル分析」というタイトルで,2022年12月の九州経済学会第72回大会で報告され,現在論文を改訂中である。また計画④「成長モデルを用いた統合分析」については,"Automation and Economic Growth in a Task-based Neoclassical Growth Model"をSSRNにてオープンアクセスで公開した。この論文は国際学術誌であるMetroeconomicaに掲載されることが決定している。また"Effects of Subsidies for Automation on Economic Growth and Factor Prices"については国際学会であるPRSCO 2022で報告され,セッションのオーガナイザーより高い評価を受けた。この論文については2023年6月に国際学術誌への投稿を目指して改訂中である。一方で計画していた内生的成長モデルへの拡張については分析を始めたばかりであり,まだ研究を進めている途中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は,本研究課題の3年目ということで,計画③「労働の質の違いを考慮したモデルの拡張と分析」,計画④「成長モデルを用いた統合的分析」を実施した。計画③については,すでに実施していた「自動化技術の導入メカニズム分析」にIT技術者のスキル獲得という要素を付け加えることで,自動化技術の進展が,賃金格差や経済成長に与える影響を明らかにした。特にこの研究では長期的にIT技術者と単純労働者の賃金格差が拡大するという結果を得ており,労働者間の所得格差を考える上で重要な結果が得られている。この研究については,すでに国内学会で報告されているが,現在論文を改訂中である。 計画④について,②「自動化技術の導入メカニズム」を新古典派モデルに拡張した分析を行った。この研究成果については,SSRNにてオープンアクセスで公開した。その後,この論文は国際学術誌であるMetroeconomicaにアクセプトされている(近日中に出版される)。 一方で当初は自動化技術の技術進歩について内生的成長モデルを用いた分析を行う予定であったが,タスクの自動化のインセンティブを動学モデルに取り込む点で技術的な困難に直面しており,このテーマについては十分な成果が得られているとは言えない。また成果発表についても,新型コロナの影響で2020年,21年に見送った分をカバーできておらず,十分とは言えない。上記にような理由で進捗としては「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間を1年間延長したことで,進捗が遅れていた計画④「成長モデルを用いた統合的分析」の中の,自動化の技術進歩に関する研究を進める。具体的にはタスク分析の手法と内生的技術進歩の経済成長モデルを統合し,近年の自動化の背景を経済学的に明らかにする。内生的技術進歩を分析する際には,タスクを実行する際にどのようなスキルが必要とされるのか,またどのようなタスクが機械化しやすいのかというかという「タスクの異質性」をどのように分析に取り込むかというのが問題になってくると思われる。本研究では①まずがタスクの異質性を考慮しない形でモデル化を行う, ②国際貿易理論などで分析されている「企業の異質性」アプローチの適用を試みる,といった2段階で自動化の技術進歩についてモデル化を試みる予定である。 また計画②「労働の質の違いを考慮したモデルの拡張と分析」についても,世代重複モデルを用いた動学モデルとして再構築し,人口構造の高齢化が労働者の技能習得や自動化とどのような関係にあるのかを明らかにする。 なおこれらの研究によって得られた成果については,九州大学経済学部内のワークショップや国内の研究集会,国際コンファレンス等で報告を行い,国際学術誌に投稿を行う。最終的には4年間の研究成果を取りまとめ,AIやロボット技術が経済社会に与えるインパクトを明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
過去3年間で,新型コロナウィルス感染防止のため,海外出張のための旅費は全く支出できなかった。また研究用の資料についても大学の基盤研究経費から優先的に支出したため,多額の未使用額が発生した。2023年度については東京,神戸への出張だけでなく,海外でのカンファレンスについても現地での参加を再開し,類似の研究をしている海外の研究者とのネットワーク構築に努めたい。またリサーチ・アシスタントの雇用,論文の英文校正費,統計資料の購入などに支出を行う。特にIFR(International Robot Federation)のロボットに関する統計データについては,高額なものであることから,ぜひ科研費を使って購入し,今後の研究に生かしていきたい。
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