2020 Fiscal Year Research-status Report
顧客情報を利用した継続的な企業間競争に対するミクロ経済分析
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20K01619
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
梅澤 正史 東京理科大学, 経営学部ビジネスエコノミクス学科, 教授 (20361305)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 価格差別 / 産業組織論 / ゲーム理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、本課題申請時に掲げた研究計画のうち、消費者が戦略的に行動することを組み込んだ複占市場モデルに関する研究を進めた。より具体的には、企業が消費者の購買履歴に基づいて次期の価格設定を行う2期間の行動ベース価格差別(Behavior-based price discrimination; BBPD)モデルにおいて、スイッチングコストを導入したモデルを検討した。まずはベンチマークとなる一様価格のケースについて分析を進めた。既存研究におけるBBPDモデルにおいては、一様価格のケースは、単純に1期間のモデルによる価格設定を2期間へ複製することによって均衡を求められることが多い。しかし、スイッチングコストを導入すると、それほど容易には均衡を導出することができない。私が考えたモデルにおいても、1期間の結果を単純に2期間へ複製、という方法では均衡が求まらなかった。そこで、細かく場合分けを行い、一様価格の均衡を導出することはできた。極端な2つの均衡を含む複数の均衡が存在することが判明した。極端な2つの均衡は、スイッチングコストを考慮した企業と消費者の行動によって生じる対照的なものである。2つのうちの1つは、消費者がスイッチングコストのために購入ブランドの変更を避けたいことから、1期目の価格が高めに設定されることを許容する状況を表すものとなっている。もう1つについては、企業側は、スイッチングコストの存在は消費者が購入ブランドの変更を嫌うであろうことを想定し、1期目に積極的に消費者を獲得しようとするものに対応しており、むしろ1期目の価格を低く設定する状況を表す。 また、モデル設定は異なるが、新製品の技術に関する特許ライセンス供与の問題に対して複占市場のモデルを分析した。消費者が戦略的に行動しBBPDが導入された場合にどうなるのかについての分析に役立てる基礎となるいくつかの結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、スイッチングコストを考慮したBBPDのモデルを分析してきたが、年度末までに、ベンチマークとなる一様価格のケースについて均衡を導出した。また今後、本課題申請時に掲げている、対称とは限らない企業間の価格差別分析を進めて行きたいため、非対称企業間の複占市場における価格差別に関する先行研究について、見直しを進めている。特に、Carroni [2016], Rhee and Thomadsen [2017] が参考となる先行研究であるため、これらの命題の詳細なチェックやシミュレーションを進めている。この2つの先行研究においては、モデルへの非対称性の組み込み方が異なる。これらのモデルにスイッチングコストを導入することも検討しているが、さらに別のモデル化も試み、簡単な分析で様相をチェックしているところである。モデル化が固まれば、BBPDにおける均衡を導出し、一様価格均衡との比較も可能になる。 ネットワーク外部性を考慮した研究については、まだあまり分析が進んでいない。価格差別モデルでスイッチングコストやネットワーク外部性を考慮した研究として、Dobos [2005] や Doganoglu and Grzybowski [2013] があり、これらを参考にしてモデル化を検討しているが、パラメータが多くなることで分析が複雑になりそうなため、モデルの吟味を行っている。前者の研究では、BBPDを扱っているが、ネットワーク外部性は企業利潤に正の影響を持ち、スイッチングコストは企業利潤に負の影響を持つことを示している。後者のモデルにおいては、BBPDではない2期間の複占市場に対する価格競争を扱っているが、結果は必ずしも前者のようにはならないようであり、その差異について吟味しているところである。 以上のような理由から、研究はおおむね順調に進展している、というのが現状であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
上の進捗状況でも少し述べたが、モデルを構築する際に、モデルにパラメータを多く組み込みすぎると、特殊ケースしか扱えないことや主要な結果が得られないことがある。何を分析したいのかをよく整理し、何が重要な要因でそれらが多少なりとも関連しあっているのかどうかについても吟味し、適切なパラメータや変数の決定を行う必要がある。それらを考慮しつつ、いくつかのモデルを同時に考慮に入れてモデル化を吟味することや、先行研究の別モデルと比較しながら分析を進めてみるというアプローチを行う必要がある。事前の検討をあまりせずに分析をどんどん前に進めていった結果、最終的に意義のある結果を導けずにやり直すような非効率な事態を避ける必要がある。また、上記のようにモデルを比較しながら研究を進める際に、研究を効率的に推進する方策としては、数値計算を実装しモデルの挙動を確認しながら分析を進めることが有用であると考えている。 さらに、世界で次々と新しい結果が報告されるので、最先端の研究論文を定期的にチェックし整理することは大切である。BBPDを含む競争の経済的影響・効果について研究を進めるとしても、BBPDのモデルに限定することなく、時には他のトピックを扱っている文献を読むことも大事である。そうすることで、研究が前に進まなくなるときに、別視点からのアイデアを生む可能性があるだけではなく、他の研究にはない深い洞察を組み込んだモデル化や分析を進められる。さらに、学会・セミナー等で近い分野の研究者と意見交換をすることにより、新たな知見を得る可能性があるため、積極的に行う必要がある。異なるトピックや現象であっても、似た考察が得られることがあり有用である。 結果がまとまり、英語論文を作成する際には、英文校閲サービスを利用して論文の効率的な作成と質の向上に役立てることも、研究の推進には大切である。
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Causes of Carryover |
(理由) 新型コロナウィルスの影響で、参加予定であった国内・国外の学会が中止またはオンライン開催となったため、旅費が支出されなかったことにより、次年度使用額が生じた。 (使用計画) 今年度中に学会がオンラインではなく開催されれば、その出張旅費として支出予定である。また、今年度中に論文を完成させる予定なので、そこで英文校閲サービスを利用する予定である。
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