2022 Fiscal Year Research-status Report
顧客情報を利用した継続的な企業間競争に対するミクロ経済分析
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20K01619
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
梅澤 正史 東京理科大学, 経営学部ビジネスエコノミクス学科, 教授 (20361305)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 価格差別 / 寡占市場 / 不完全競争 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、顧客情報を利用した企業間競争を分析している。2022年度は、本課題申請時に掲げた研究計画のうち、行動履歴に基づいた価格差別モデル(BBPD)において消費者の次期価格への予想(先見性)が非対称企業間の競争にどのような影響を与えるのか、について研究を進めた。モデル上は、消費者の割引因子が先見性の度合いに相当する。しかし、一般の割引因子で均衡を求め、価格差別を行わない一様価格時の均衡と比較することは、本モデルでは計算上非常に困難である。そのため、割引因子が0と1という2つの特殊ケースについて均衡を求め比較することにした。割引因子が1というのは2期目を重視する先見性のある消費者を想定し、割引因子が0というのは先を見越すことがなく1期目のみに重きをおいて購買行動を行う消費者を想定している。2021年度中に、予備的な数値実験として、割引因子が1と0.9のケースについて均衡結果を得ていた。この結果から、まずは、割引因子が小さくなると、企業間の非対称性とスイッチングコストが価格差別時の企業利潤にどのような影響を与えるのかについて確認した。2022年度は、この分析をさらに進め、割引因子が0のケースについて価格差別を行わない一様価格時の均衡と比較し、以下の結果を得た。消費者に先見性がない場合は、ある場合に比べて、非対称性があまり大きくない企業間の競争においては、企業がBBPDのほうが一様価格よりも利潤を上げられる可能性が減少する。その一方で、非対称性が大きい企業間の競争においては、その可能性が増加する。この結果を論文にまとめ、改訂を経た上で学術雑誌に採択された。 さらに、2022年度は、企業による広告を考慮した時に行動履歴に基づいた価格差別がどのような影響を与えるのかを検討するため、広告に関する先行研究の理解を深めた。さらに予備的に数値実験を行いモデルの振る舞いを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、顧客情報を利用した継続的な企業間競争の分析であるが、主に価格差別戦略について分析を進めている。本課題申請時に掲げていた3つの問いのうち、1つ目の問いは、消費者の戦略的行動を想定した分析である。これに関しては、2021年度の時点で消費者のスイッチングコストが企業利潤、消費者余剰、社会的余剰に与える影響について研究結果を得ている。また、2022年度に、消費者の次期価格への先見性を考慮した分析も行ない結果を得たので、分析はひとまず完了している。2つ目の問いである、非対称企業間の価格差別分析についても、2021年度と2022年度の分析モデルにおいて垂直的かつ水平的に差別化された企業間競争モデルとして組み込んでいる。このモデルを使って、対称な企業間の競争モデルでは確認することができなかった結果を得ることができている。価格差別は企業利潤を減少させるというのが対称企業間競争の良く知られた結果であるが、非対称企業間の競争では必ずしもそうはならないことが本研究で確認できている。上記の1つ目と2つ目については、異なる価格差別モデルにおいても、統一的に解釈可能な結果が得られるのかについての確認ができれば、よりロバストな結果となる。この点については、残りの期間で分析を詰められればと考えている。 さらに、残りの3つ目の問いである、販売戦略を踏まえた価格設定については、今年度分析を進めて行く課題である。研究実績の概要でも述べたように、広告戦略を価格差別と併用したモデルについては、モデルの構築および予備的な計算を進めている。いくつかのモデルを試しているところであり、広告が価格設定に与える影響が導けるようなモデルを模索している。その他の販売戦略を考慮したケースについても、今後分析を進める予定である。 以上のような理由から、研究はおおむね順調に進展している、というのが現状であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
有用な結果を得るためには、最初のモデル構築の段階が非常に重要となる。そのためには、モデルを色々と修正し均衡結果を求め試していくことでモデルの挙動を確認し、有効なモデルを探していくことが基本ではある。複雑になりすぎないように注意が必要である。モデルの計算部分は、可能であれば共同研究者とも協力して相談し、効率的に進める予定である。 また、既存研究の調査も大事である。既存研究で扱われているモデルを確認することによって、その結果からアイデアを得ることができれば、研究の推進に繋がる。しかも、本課題のような価格差別を扱っていないような既存研究であっても幅広く調査をすると新たな発見があるかもしれない。さらに、実証研究のモデルも調査し、検証してみることが有効である。実証研究で報告されているモデルは、モデルの妥当性が確認されているので、理論分析で用いる価値がある。その上で、これら複数のモデルの長所や欠点を良く検証し、組合わせることでモデルの改良が可能であることもある。既存研究のモデルは、文献から確認することができるが、学会や研究会に参加して、研究報告を聴くことにより知識を獲得することは効率的に研究を進める方策となり得る。また、自身の研究成果を学会で報告し、意見やコメントをもらうことも研究推進には有益である。そのため、2023年度も学会・セミナーへの参加だけではなく、学会での研究報告を予定している。 研究成果を効率的にまとめる工夫も必要である。英文論文の初稿を作成する際には、英文作成をサポートしてくれるソフトの利用が有効ではないかと考えている。最近ではフリーオンソフトウェアも存在するが、有料ソフトウェアを利用することにより、より効率的に原稿作成ができればと考えている。英文校閲サービスも有効に利用し、よりスピーディーに論文が発表できるようにすることも推進方策としては重要である。
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Causes of Carryover |
(理由) 新型コロナウィルスの影響で、参加予定であった国内・国外の学会がオンライン開催となったため、旅費が支出されなかったことにより、次年度使用額が生じた。 (使用計画) 今年度中に学会がオンラインではなく対面で開催されれば、その出張旅費として支出予定である。また、今年度中に執筆予定の論文に関して、英文校閲サービスを利用する予定である。
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