2020 Fiscal Year Research-status Report
アフガニスタンにおける銅鉱山開発に伴う強制移住の長期的影響と補償政策の定量的研究
Project/Area Number |
20K01632
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
吉田 雄一朗 広島大学, 人間社会科学研究科(国), 教授 (70339919)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アフガニスタン / 農業開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、Moahid et al. (2020)として、アフガニスタンにおける農業融資とその附属サービスが、農業従事者の経済的状況に与える影響についての研究を行った。持続可能な農業発展において、適切な金融サービスへのアクセスは欠かせない。本研究では、傾向スコアマッチングおよび逆確率加重回帰を用いてこうした金融サービスが農業の費用や収益に与える影響を計測した。結果からは、融資だけではなく、付随するサービスも同時に提供することが、必要不可欠であることが明らかになった。また、アフガニスタン政府は、サフラン農家サービスセンターを通じて農家に必要な支援を提供することにより、国内で広く普及しているアヘン栽培を減らしながら、経済発展を達成する手段としてサフラン生産を促進している。そこでMoahid et al. (2020)は、潜在的なサフラン生産促進政策の様々な属性がサフラン生産への農家の参加確率に及ぼす因果関係を調査した。この研究では、アフガニスタンのサフラン生産の中心地と認識されているヘラート州の298人の農民にランダム化されたコンジョイント実験を適用した。結果として、望ましいサフラン生産促進政策は、生産機械の提供、長期(最大5年)融資の利用可能性、農業支援サービスセンター、および国際非政府組織(NGO)による政策の実施などが含まれ、これらサフラン農家がサフラン促進政策を非常に支持しており、彼らの支払い意思額が一人当たりの収入の17%にもなることを明らかにした。この他にも、Lee et al. (2020), Appiah et al. (2020)など、関連する一連の研究を国際学術誌に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、アフガニスタンにおいては農業が住民の生活を支える基盤産業であることに注目し、その実態を主に実証的な側面から明らかにする研究を実施した。これらの研究は Masaood Moahid, Ghulam Dastgir Khan, Yuichiro Yoshida, Niraj Prakash Joshi, and Keshav Lall Maharjan, “Agricultural Credit and Extension Services: Does Their Synergy Augment Farmers’ Economic Outcomes?” Sustainability, March 2021, 13, 3758, pp. 1-23. Mohammad Wais Azimy, Ghulam Dastgir Khan, Yuichiro Yoshida, and Keisuke Kawata, Yuichiro Yoshida, “Measuring the Impacts of Saffron Production Promotion Measures on Farmers' Policy Acceptance Probability: a Randomized Conjoint Field Experiment in Herat Province, Afghanistan,” Sustainability, May 2020, 12(10), 4026, pp. 1-15. にまとめられている。関連する一連の研究をこれらを含めて合計4本の論文にまとめ、国際学術誌に発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
アフガニスタン政府の経済発展政策の一環として、その首都カーブル市の郊外に位置するアイナック銅鉱山の開発が開始されたのに伴い、銅鉱床直上に位置する付近の村全体が強制的に移住させられた。この問題は発生から10年が経ってはいるが、強制移住された住民はいまだに大きな経済社会的損失に苦しんでいるといわれている。今後は、なるべく速やかにこれら住民に対する詳細な調査を現地インタビューというかたちで行ない、彼らの置かれた状況のさまざまな側面に関する数量的および記述的データを収集することで、強制移住の長期的影響を明らかにするという当初の研究目的を達成する。ここで大きな課題となるのがコロナ禍の問題であり、このため、現在こうした現地調査に基づく一次データの収集は困難である。今後はアフガニスタン国内との研究ネットワークを通じて現地における調査人員や研究サポートを確保し、できるだけ速やかに研究上必要なデータの収集を行っていく。
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Causes of Carryover |
今般のコロナ禍の問題のため、アフガニスタン・アイナック銅鉱山開発に伴う強制移住の長期的影響を明らかにするという研究目的達成に必要となる、現地住民に対する詳細なその経済社会的状況の調査が本格的に開始できていない。今後は、アイナック銅鉱山周辺の治安とコロナ感染状況を詳細に確認しつつ、安全を確認出来次第速やかにこれら住民に対する現地調査を開始し、強制移住の長期的影響を明らかにするという当初の研究目的を推進していく。
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Research Products
(4 results)