2020 Fiscal Year Research-status Report
世界同時不況下における裁量的財政政策の有用性に関する実証研究
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20K01633
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
久保 彰宏 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (90554882)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | マクロ経済政策 / 財政政策 / 為替介入 |
Outline of Annual Research Achievements |
グローバル金融危機による世界同時不況発生から10年が経過し、実証分析に耐えうるサンプル期間を得た今、各国が実施した裁量的財政政策の効果を定量的に検証する絶好のタイミングを迎えている。本研究の目的は、当該危機発生以降の各国財政政策が与えたマクロ経済効果について欧州や新興市場国を対象として実証分析を行い、最終的に不況時における裁量的財政政策の有用性に関するインプリケーション抽出を試みることにある。本研究では、ゼロ金利下にあるため金融政策がまったく機能しないケースと低金利であってもまだ金融政策が政策効果を発揮する余地が僅かでもあるケースとで分析を国や期間ごとに区別するが、さらに緊縮財政を採用するケースと財政拡張するケースとでも区別する。とりわけ、金融政策の余地が残されている(ゼロ金利ではない)ケースとして比較的マクロ経済政策の運営が安定している新興市場のインフレターゲット採用国(ブラジル、インドネシア、タイなどデータの収集が可能な12ヶ国)を対象とし、その根幹となるシミュレーション分析のための小国開放動学的一般均衡(DSGE)モデルに適用する理論的枠組みを確定した。しかし、財政政策の定式化が試行錯誤にある。インドを最初の事例候補としているが、そのデータ整備および財政政策の定式化を終えているものの、シミュレーション分析が完了していない状況にある。他方、上述のモデルに為替介入を内生的に取り扱う分析を完了させ、現在、海外学術誌へ投稿、審査中にある。 なお、当初より予定していた緊縮財政によるショックがマクロ経済変数に与える今後数年間の予測値を推定、ファンチャート化することで裁量的財政政策の出口戦略が達成されるかどうかについて検証しようとする試みは、現時点でのコロナウィルスによる世界的影響を鑑み、コロナウィルスによる経済への影響を予測する方向へ一時的に変更し、検証に取り掛かっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は分析対象国のデータ整備を完了させるとともに利用する小国開放DSGEモデルに組み込むマクロ経済政策(とりわけ財政政策)の理論的枠組みについて確定させる予定であったことから、概ね順調に推移してきていたが、シミュレーション結果がマクロ経済理論と整合的でなく、その改善に至っていたない。ただし、低金利の状況にあるがゼロ金利下ではないケースとして金融・財政政策が調和する新興市場のインフレターゲット採用国の分析に用いる為替介入を組み込んだ小国開放NK-DSGEモデルの検証に関しては研究成果として海外学術誌に投稿中である。なお、Nakamura & Steinsson (2014) を参考に、財政政策の乗数効果を示すパラメーターを分析対象国のパネルデータより導く予定であるが、これも試行錯誤の途中にある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は財政政策の定式化を確定させ、同時に分析対象国のパネルデータから財政政策の乗数効果を示すパラメーターを抽出することが目標となる。本研究においてデータの整備状況が最も進んでいるインドを対象に、まずは実証分析の基準となる位置付けとして論文に取りまとめる。なお、コロナ禍により大幅な遅れとなっている政策担当者へのヒアリングや現地研究者との意見交換の実施を可能になり次第実施する予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度に国内外出張費及び英文校閲費が発生しなかったため、次年度に使用予定。
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