2023 Fiscal Year Research-status Report
Theoretical Study on Sustainable Development in Developing Countries
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20K01636
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大東 一郎 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (30245625)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 再生可能資源 / オープンアクセス / 都市失業 / 構造転換 / 工業化 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究目的は、開発途上国において「持続可能な開発」の可能性を解明することにある。 (1)ハワイ大学への留学渡航(2023年7月)前には、小国開放ハリス・トダロ(HT)モデルの農村部門に資源財だけでなく農業生産もあるモデルでの新しい発見は何かを探った。資源財輸出税率引き上げにより、資源財生産から解放される労働が、農村の農業に吸収されるため、都市インフォーマル部門の拡大効果が弱まること以上の発見はないように思われた。 (2)そこで今後は、より広範な「構造変化」のモデルを用いる研究に進むこととした。 ①「小国開放農工2部門モデルでは、農業生産性が改善されると工業の発展が必ず抑制される」というMatsuyama(1992)の結果を批判的に検討し、独自のモデルで「農地肥沃度が大きく低下するなら、小国開放経済であっても工業化が促進されうる」ことを確認した。 ②これを一般化して、再生可能資源ストック(農地、森林、魚群等)を用いる1次産業での生産性の改善が「構造変化」を通じて工業の拡大を促進するかを、新たな農工2部門モデルを構築して分析した。現代の開発途上諸国が1次産品の生産・輸出に大きく依存しているというBarbier(2005)の指摘を想起すれば、現実的に重要な分析である。そして、既存研究(Lopez,2007,2010,2013; Antoci et al., 2012,2014,2015)で扱われた状況に比べて、工業資本蓄積のインセンティブが弱く、かつ自然資源ストックがゼロとなりやすい状況でも、「持続可能な発展」の成長経路が存在しうることを明らかにした。 (3)都市インフォーマル部門の拡大要因として人口増加も重要との国際学界での認識を踏まえ、人口変化と経済成長の関係の分析を試みた。ラムゼイ型最適成長モデルで人口減少下での均衡経路を導出する論文を作成し、内外の学会、セミナーで報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度にハワイ大学への留学渡航が実現し、同大学の共同研究者との面談を再開することができた。「研究実績の概要」の(1)にある農村部門に資源財と農業が併存するHTモデルでは、大きな意義のある発見が難しく思われたので、近年の開発経済学でも進展中の「構造転換」モデルを用いる研究を中心に据えることで合意した。そして、これまでの文献調査や分析能力向上努力の成果を活かして、「研究実績の概要」の(2)にある「構造変化」モデルの動学分析を実施することができた。「研究実績の概要」の(3)の論文も、ハワイ大学でのワークショップや日本経済学会秋季大会で報告し、有益なコメントを得ることができた。 都市インフォーマル部門の縮小だけでなく、1次産業の生産性改善を契機に生じる「構造転換」過程を考慮して「貧困削減と自然資源管理の両立可能性」を探るという、より広範な視野をもつ新たな進路も開け、研究はおおむね順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)1次産業での生産性の上昇が工業化を促進するか否かを分析した「構造転換」モデルについて、共同研究者との討議を継続し、研究論文としての初稿を執筆する。 (2)農村再生可能資源ストックと都市失業率とが同時に変動するモデルでの分析結果が、経済学界にどのような貢献となりうるかの考察を(研究代表者単独で)継続する。 (3)人口減少下でのラムゼイ型最適経済成長モデルの論文を、国内外の学会で報告しコメントを得て改訂し、学術雑誌への投稿を行う。
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Causes of Carryover |
2022年度に、予定していたハワイ大学での研究会合について、現地ハワイの共同研究者より新型コロナウィルスの影響で会合延期の申し入れがあったため、出張を中止せざるを得なくなり、旅費に未使用額が生じた。2023年度から、大学の派遣留学によりハワイ大学交換訪問研究者として渡航し研究会合を再開できたので、この未使用額を、研究情報の収集、論文発表、英文校閲、学術雑誌への投稿などに使用する計画である。
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