2020 Fiscal Year Research-status Report
Studies on the interaction between transfer pricing of multinationals and trade policies
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20K01659
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
椋 寛 学習院大学, 経済学部, 教授 (90365065)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 移転価格 / 自由貿易協定 / 原産地規則 / 多国籍企業 / 権限委譲 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度は、自由貿易協定(FTA)の締結と移転価格に関する分析、およびその関連研究を主に実施した。まず、多国籍企業が法人税回避に加えて、原産地規則の付加価値基準を満たすために移転価格を操作することを考慮した分析を実施した。分析の結果、原産地規則の付加価値基準が法人税回避のための移転価格設定の制約となることが明らかになった。特に、多国籍企業が原産地規則を満たし関税撤廃を重視する場合、通常の移転価格操作とは異なり、多国籍企業の利潤が法人税が低い国から高い国へと移転するケースがあることが明らかになった。本研究は国際学術誌に投稿し、改訂要求を受けている。また、多国籍企業の「FTA利用による関税回避」を目的として生産立地点の移転を行うことを考慮しつつ、RTAの締結が移転価格設定とその厚生効果に与える影響を分析した。分析の結果、RTAの締結が多国籍企業が域外から域内へ中間財の調達先を変更する場合は、多国籍企業は最終財を生産する川下企業に権限委譲をしつつ、その移転価格の操作が目的を「法人税の回避」が「市場競争を有利にする」に変わる。結果として、全ての企業がFTAを利用して無関税で輸出するようになったにも関わらず、その利潤が下がり得ることを示した。本研究は、国際学会で報告し、現在、国際学術誌に投稿中である。さらに関連研究として、原産地規則の付加価値基準を満たすために輸出価格を上昇させるケースを考慮した研究を行い、原産地規則が高価格設定のコミットメントデバイスなり、関税が撤廃されたにもかかわらず消費者が損失を被ることを示した。本研究は、国際学術誌であるThe World Economy誌の査読を経て受理されており、近刊となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍のなか、予定していた学会報告が、大会の中止などにより実施できなかったが、初年度に査読付き国際学術誌に1編が受理され、もう1編が改訂要求を受け、さらにもう1編は投稿することができており、当初計画よりも進展している。一方、アンチダンピングと移転価格の研究に関しては、初年度の半ばに研究協力者が学会報告を実施するまで研究が進展したものの、その後、分析内容に比較的大きい問題が生じたため、研究計画を練り直している状況で有り、やや遅れている。以上より、総合的に見て概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
3つの研究テーマ、(1)地域貿易協定と移転価格、(2)アンチダンピングと移転価格、および(3)関税パススルーと移転価格のうち、(1)については順調に進展しており、改訂要求を受けたものについては早急に改訂し受理されるようにし、投稿中のものは2021年度内に査読付き国際学術誌への掲載を目指す。アンチダンピングと移転価格の分析に関しては、中間財に関する第三者価格差別の先行研究を整理しながら学術的な新規性を明確にし、研究結果をまとめて国内外の学会で報告するとともに、学術誌に投稿する。さらに、2021年度の後半からは、関税パススルーと移転価格に関する分析を開始する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍が続き、予定していた国内外の学会出張や研究相談の出張が中止となったため。
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Research Products
(3 results)