2020 Fiscal Year Research-status Report
難民の移住国決定要因について:欧州への難民認定申請者は偽装した経済移民なのか
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20K01698
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
鈴木 智也 関西大学, 経済学部, 教授 (40411285)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 難民申請者 / 経済移民 / 異文化理解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、難民申請者の欧州への流入が急増している背後の経済的要因と文化的要因を実証的に探るものである。サンプル期間を2001年から2016年とし、欧州の受け入れ国としてはアイスランド以外で経済開発協力機構に加盟する25か国を選んだ。また、欧州へ流入する難民申請者の多くがシリア、アフガニスタン、イラクであるので、送り出し国としてこれら紛争経験三か国を選んだ。 モデルとしては一般化線形モデルを用いた。応答変数は難民姿勢者数である。経済的な説明変数とデータについては、自由移民に関する先行研究から標準的なものを選んだ。文化的な説明変数とデータについては、国民文化に関するホフステッド指数を利用した。 経済的な要因についての有意な推定結果は以下の通りである。欧州の各受入国における雇用者一人当たり所得は紛争三か国からの難民申請者のプル要因である。なかでも、シリアとイラクからの難民申請者数については弾力性が1を超えている。さらに、欧州の受け入れ国における雇用機会も、アフガニスタンとイラクからの難民申請者のプル要因となっている。一方、送り出し国側の雇用機会の喪失は、シリアとイラクにおいて、難民申請者のプッシュ要因となっている。 文化的な要因として有意な推定結果は以下の通りである。シリア、アフガニスタン、イラクの三か国からの難民申請者の共通点として、(1)個人主義で、(2)長期志向で、(3) 不確実な状況への耐久力がある、という国民性の国々を申請先に選ぶ傾向がある。相違点としては、アフガニスタンからの難民申請者が男性性の強い社会を好む一方、シリアとイラクからの難民申請者がそのような社会を避ける傾向にあることが判明した。また、シリアとアフガニスタンからの難民申請者については、権力格差を嫌う社会を選んでいることも判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は自由移民に関する先行研究をなぞる形で難民の研究を行う予定であり、その先行研究から離れて独自性の高いアプローチを採るのは二年目からである。初年度に行った研究は上述の「研究実績の概要」の通りである。 この研究自体は初年度が始まる前から継続していたものであるが、推定結果がなかなか安定せず、2020年度の前半は試行錯誤に終始した。結果が安定してからまとめた論文を Migration and Development という Taylor & Francis から出ている査読付き学術誌に送ったところ、書き直しの必要なく採択された。その結果、年度の前半に遅れていた進捗状況をかなり挽回できた。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目となる今年度から移民や難民の先行研究をなぞるスタイルから離れて、独自性を高めていく。研究計画調書に記したように、本研究の特色は難民や移民の動態に生態学のモデルを援用することにある。最終的には難民申請者が受入国の居住者とどのように競合したり共生したりするのかという相互作用を数理的にモデル化する。 しかしながら、今年度は第一弾として、相互作用は考えず、難民申請者の動態について簡単なモデル化から始める。たとえば、数理生態学ではよく知られた密度効果に着目する。密度効果とは、個体群の密度によって個体数の成長率に影響が表れることをいう。簡単にいえば、資源が有限であるので、生物が個体数を無限には増加させられないという現象である。難民や移民についても、人気の高い移住先が存在するが、その移住先の居住可能なスペースは有限であり、各国とも無制限に移民を受け入れているわけではないので、密度効果は難民申請者の動態にも当てはまるのではないかと思われる。2021年度はこのテーマで研究を進める。
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Causes of Carryover |
2020年度は、二年に一度の European Association for Population Studies の大会が開催される年にあたり、事前に申請した報告希望が採択されていた。本来であれば、2020年6月にイタリアのパドバ大学で報告を行っていたはずである。しかしながら、新型コロナウィルスの影響で、大会がキャンセルとなって報告の機会を失った。これが次年度使用額が生じた理由である。 2021年度は、可能であれば、2月か3月に新しい研究成果を別の大会で報告したいとは考えている。現段階では、本務校が海外出張を禁止しており、学会報告については何も決められない状態である。
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