2021 Fiscal Year Research-status Report
人口高齢化が政府の公共財供給に与える影響―政治経済学的アプローチ―
Project/Area Number |
20K01712
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
寺井 公子 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (80350213)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮里 尚三 日本大学, 経済学部, 教授 (60399532)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 人口高齢化 / 政治経済学的アプローチ / 教育 / インフラ投資 / 福祉 / 足による投票 / パネルデータ分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人口高齢化が政府支出、課税、規制にどのような影響を与えるかを、日米データを使って分析することを目的としている。高齢者は若い世代と比較して、長期間にわたり便益を発生させる政策よりも、短期に集中して便益を生み出す政策のほうを好むと考えられる。したがって、高齢化が進む地域では、教育やインフラへの支出が少ないと想定される。また、高齢化が進行する地域では、高齢者も負担しなければならない消費税から直接的に負担を負わなくてもすむ法人税へのシフトが生じるかもしれない。さらに、企業負担を増加させる最低賃金引き上げに対して、高齢者は強い反対はしないと想定される。 人口高齢化は人的・物的資本投資を抑制するという政府支出配分に関する仮定の検証は、2020年度にほぼ完了しており、2021年度は頑健性のチェック、推定結果の日米比較を中心に分析を続けた。そこから、高齢化率だけでなく、人種構成、地域間の人口流動性といった人口学的要因が日米間の結果の違いを生み出しており、特に人口流動性の差異は地理的・歴史的・制度的要因に影響を受けることから、人口高齢化の影響を予想するときには、国によってこれらの要素に違いがあることを考慮する必要があると結論づけた。 地域による法人税率設定や最低賃金設定についても、日米のパネルデータを使って分析を行った。その結果、高齢者の多い地域であっても消費税から法人税へのシフトは起きておらず、高齢化率は最低賃金に有意な影響を与えていないことがわかった。前者については、高齢者は金融資産を多く保有しており、企業負担の増加が株価等資産価値の低下につながることを恐れている可能性があること、後者については、介護従事者の労働市場で需要独占が生じており、最低賃金引き上げは必ずしもサービス価格の上昇につながらないこと、などが主要な理由であると考えるに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
日本とアメリカのパネルデータを用いた実証分析が順調に進んだ。また、日米間の推定結果の相違について、政治経済学、地方財政理論の知見に基づきながら、納得のいく解釈を導くことができた。特に、人口高齢化によって生じる諸問題に対して、地方分権は1つの解法となり得ると位置づけ、今後の日本の地域政策のあり方を考えるうえで、重要な出発点となる示唆を得ることができた。 分析結果を英語の書籍The Political Economy of Population Aging: Japan and the United Statesとしてまとめ、2021年度中にSpringer社より刊行した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、2021年度に出版した書籍の内容をもとに、日本の地方財政制度への理解を深め、制度改正への提案を行うことを目指す。具体的には、日本の地域政策の変遷を振り返り、かつては地方で深刻であった人口高齢化が都市でも進行していること、東京一極集中の是正、過疎・過密問題の解決といった従来の国土開発理念とは異なる、新たな地域政策の理念が必要とされていることを確認する。さらに、英語版の書籍に、日本の人口高齢化と地域政策のあり方に関する章をいくつか加え、日本語の書籍として刊行することを予定している。 日本語版の書籍執筆に際しては、データや図表のアップデートに止まらず、日本の地方財政制度、地域医療制度に関してより深く考察し、高齢者が多く住む地域における「地方創生」政策について、具体的な提案を行うことを計画している。
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Causes of Carryover |
当初、国内・国際学会での発表・参加を予定して旅費を計算していたが、新型コロナウイルス感染拡大のため、2020年度、2021年度は多くの学会が中止になったり、オンライン開催になったため、予定していた旅費を支出できなくなり、次年度使用額が生じた。 コロナの状況が国際的にも落ち着いてきており、当初参加を計画していた国際学会の多くが、対面での開催に戻そうとしている。2022年度は海外出張を再開し、対面での学会参加によって、現地での情報収集、議論への参加に努めることを予定している。
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