2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K01722
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
小塩 隆士 一橋大学, 経済研究所, 教授 (50268132)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 健康の社会的決定要因 / パネル調査 / 個票データ / 中高年層 / 社会保障改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、個人の行動や健康の変化を長期間にわたって追跡できるパネル調査を用いることにより、第1に、健康の社会的決定要因(social determinants of health; SDH)が健康に影響を及ぼす経路を分析する。第2に、健康がSDHに及ぼすフィードバック効果を解明する。SDH研究はこれまで、SDH→健康という経路の把握に力点を置いてきたが、本研究では、両者の間の二方向的な性格を重視した分析を行うことも目指している。 2年目の2021年度においては、申請によって利用可能となった厚生労働省「中高年者縦断調査」の個票データを本格使用することにより、研究論文を内外のジャーナルに投稿・刊行してきた。 2021年度における主要な成果としては、次の3点を挙げることができる。第1に、仕事満足度が中高年の健康にどこまで影響を及ぼすかを生存分析の手法に基づいて厳密に分析した結果、満足度が高いほどその後の健康悪化ペースが抑制されることを確認した。第2に、社会参加活動が健康に良好な影響を及ぼすことはよく知られているが、社会参加活動が活発な地域(学区)に住んでいるだけでも、健康面にプラスの効果が持続することを、マルチレベル生存分析の手法に基づいて確認した。第3に、就業と健康との関係を分析したうえで、定年や公的年金の支給開始年齢の70歳までの引き上げによる健康への影響を分析し、総じてプラスの効果が生じるものの、メンタルヘルスは悪化する傾向があることを明らかにした。 こうした主要な成果に加え、定期健康診断の疾病リスク抑制効果が限定的であることや、たばこ税の税率が、2兆円のたばこ税収を維持することを目的として調整される傾向があることなど、健康に関する政策の効果や特徴を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度に引き続き、2021年度も査読付き論文を順調に刊行することができた。特に、厚生労働省「中高年者縦断調査」を用いた論文のうち1本は、産業保健分野の有力誌Scandinavian Journal of Work, Environment & Health (インパクト・ファクター=5.024)に採択され、研究成果に対して国際的に一定の評価が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
厚生労働省「中高年者縦断調査」のほか、当初の計画段階では予定しなかったものの、内閣府社会経済総合研究所と共同で実施したネット調査の個票データを用いて、中高年の健康の社会的決定要因に関する研究をさらに進める。2022年度は最終年度に当たるため、これまで得られた知見に基づく政策提言を打ち出すことを目指す。
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Causes of Carryover |
2020年度において厚生労働省「中高年者縦断調査」の入手が大幅に遅れた影響が2021年度にも及び、予定していた論文執筆が大幅に遅れたため、英文校閲やジャーナル掲載料の支出が出来なかった。2022年度においては遅れを挽回するため、研究を加速し、英文校閲やジャーナル掲載料の計画通りの支出を目指す。
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