2020 Fiscal Year Research-status Report
The effect of Japan's Longevity on Monetary Policy
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20K01743
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
左三川 郁子 (笛田郁子) 一橋大学, 経済研究所, 准教授 (30843776)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 長寿化 / 少子高齢化 / 日本銀行 / 金融政策 / 自然利子率 / 新型コロナウイルス / マイナス金利 / 名目金利の実効下限 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は人口動態の変化、とりわけ長寿化が人々の貯蓄・投資行動を通じて、我が国の金融政策にどのような影響をもたらしているかを探ることである。仮に長寿化が自然利子率、すなわち経済や物価に対して引き締め的にも緩和的にも作用しない均衡実質金利に低下圧力をもたらしているなら、日本銀行の非伝統的金融緩和政策の効果が弱められている可能性も考えられる。 日本銀行が2013年に量的・質的金融緩和政策を開始してから8年が経過した。にもかかわらず、消費者物価上昇率は物価安定目標の2%を未だ達成できていない。ひとつの仮説は自然利子率、すなわち完全雇用の下で貯蓄と投資をバランスさせる実質均衡利子率が低下し、日本銀行が大規模な金融緩和政策を続けても十分な効果が得られなくなっているというものである。そこで、Laubach and WilliamsやClark and Kozickiをはじめ複数の手法により、自然利子率の推計を試みた結果、自然利子率はデータが得られた最新時点の2020年にはマイナス水準にあることが確認できた。 我が国では2016年初にいわゆるマイナス金利政策が導入され、名目金利が実効下限(Effective Lower Bound;ELB)に接近している点が指摘されている。こうした中で2020年に発生した新型コロナウイルスの世界的な感染症拡大は、企業の資金繰りを支援する目的から、日本銀行に流動性の供給拡大を迫った。仮に日本銀行がマイナスの政策金利をさらに引き下げた場合に、銀行の純金利収入(Net Interest Income; NII)にどのくらいの影響を及ぼすかを、個別の地方銀行および第二地方銀行の財務データから調べたところ、異次元緩和初期に比べて、NIIを減少させる効果が拡大しており、金融緩和の効果が得られにくくなっている点も確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
国際的な査読付き学術雑誌への投稿が間に合わなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度には以下の作業を進める予定である。 (1) 査読付きの国際学術雑誌に投稿する。 (2) 実証分析を拡張する。人口動態の変化(長寿化の影響)を取り込むため、関連データの取得と世代重複モデルなどへの応用可能性を探る。 (3) 新型コロナウイルスの感染症拡大の影響(貯蓄行動への影響、出生率の落ち込みなど)についても検討する。 研究成果を学術論文にまとめて国際的査読雑誌に投稿するともに、国内外の研究会や学会で発表する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額については、令和3年度助成金と合わせて全国消費実態調査など関連データの取得に使用する予定である。
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